花園に強制連行
昼休み。ノートと鉛筆、それこそが、
「
いきなり自分の名字を呼ばれて、陸也はどきっとする。陸也の名字を呼んだ女子は、陸也の席に近づいてくる。
陸也がそうっと顔を上げると、女子が五人、ぞろぞろと陸也の席を取り囲んだ。教室中の注目が、陸也に集まる。
陸也は本気で怯える。
これは、いったい、なにごとだ。
陸也の名前を呼んだ女子は、しゃがみ込んで陸也の席に両ひじをついた。そこには、かすかな笑みが見てとれる。
「佐渡くんってさ、いつもノートに向かってるよね? なんか書いてるの?」
「い、いや、べつに……」
陸也の視線は、おどおどとさまよう。女子と話すなんて、めったにないことだ。
「あたしたち、佐渡くんの書いてるもの見たいなー」
ほうっておいてくれ、と言いたいが、陸也の口からは「あ……はあ……」というあいまいな声しか出てこない。
「見てもいい?」
小さくうなずいてしまったのは、自分の詩に自信があったから。
女子が、陸也のノートをぱらぱらとめくる。「ふうん……」「へえ……」などと、ときどき呟いている。
だいじょうぶだ。
陸也は自分に言い聞かせる。
俺の詩は、自分で思うのもなんだが、うまい。芸術的センスがある。ぜったいに、高評価なはず――。
「これ、笑えるね」
女子は、陸也の気持ちを一蹴した。先ほどと変わりない、屈託ない笑顔で。
しかし、陸也はそのことに気づかない。褒められたのかと、勘違いする。俺もやれば、できんじゃん。
「……そう?」
「うん。こんなくだらない詩書いてるひまあったらうちの部活に入部しな。ねっ?」
くだらない?
陸也は耳を疑った。しかし、その女子の顔は、本気だった。
「ああ、ちなみに吹奏楽部ね。ちょうど部員がひとり辞めちゃって、大会に出られなくって大変なんだ。さっき、名簿見たよ。部活入ってないんでしょ? ちょうどいいじゃない」
吹奏楽部――?
そもそも、部活というのは陸也にとって恐怖だ。あんな、ほかの人間たちといっしょに活動するなんて、考えただけで嫌だ。
しかも、吹奏楽部は女子ばかりだと聞いている。女子なんて、とんでもない――。
「ほらほら、さっさと行くよっ」
陸也は、女子たちに腕をつかまれ無理やり部室に連れて行かれるのであった。
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