第59話 ラストダンス
「まさか勇樹くんと踊れるとは思ってもみなかったわ」
「今日は薫にも世話になったし、感謝の気持ちでいっぱいだよ」
いつも凛々しく振る舞う生徒会長の薫だが、今は年相応の女の子になっている。
「私達だけ勇樹くんと踊っていいのかしら?あなたがコンテストで優勝してさらに有名になったからみんなの視線がすごく痛いわ」
「なに言ってる?俺だって男子の視線が痛いわ」
お互いに微笑みながら、非常に有意義なダンスを楽しんでいた。
「ありがとう。いい思い出が出来たわ。ソワソワしているあの子にバトンタッチするわ。ほら!こっちにきなさい。今度はあなたの番よ」
「おうまたな。おい結衣なにモジモジしてんだよ?お前はモジモジくんか?」
珍しく控えめにモジモジしてこちらを上目遣いに見ている。
「ほら、次の曲が始まるぞ?」
差し出された手を眺めると微笑みを浮かべゆっくりとその手を取った。
「そういえばさ、最初もこうやって勇樹くんが無理矢理手を引っ張ったんだよね」
「あれは……今にしてみれば拉致だよな」
「だね〜」
考えてみれば結衣を助けた事がきっかけで今の俺がある。
この明るくて人懐っこい性格は、ミスターゼロ時代に衝撃を受け同時に人と接する楽しさを教えてくれた。
「ふふ」
「な、なに?人の顔見て笑うのは女の子に対して失礼だよ?」
「そうだな。女の子だったな。よく見たら2、3番目くらいに可愛いんだな」
「数字が具体的すぎるっつの。少しは気を遣ってよミスターゼロさん」
「今の俺にはたくさんの物があるからゼロではないな。ほら、こんな可愛い友達とダンスまで出来るんだぜ?」
「!?もう!早く新菜ちゃんとラストダンスして来い!」
恥ずかしさを紛らわせようとしているのか背中を強く叩かれ押されていた。
心の中で『ありがとう』と呟きながら、最愛の妹の元へと向かう。
キャンプファイヤーの中心へ向かって歩いて行くと、幻想的に揺らめく炎を背にしながら微笑みを浮かべる美少女が立っている。
「おかえり」
「ただいま」
言葉は同じでも毎日自宅で繰り返されるそれとは違う。
しかし、今ほどしっくりくる言葉は他に見つからない。
その後ラストの曲が流れ始めるとお互いに無言のまま見つめあい踊り始めた。
新菜の瞳の奥にうつしだされる自分の表情はなんとも幸せそうだった。
家と往復するだけで何も感じなかった無機質の学校がこんなにも幸せをもたらせてくれるとはいったい誰が想像しただろうか?
今はミスターゼロではない。
みんなのにおかげで欲しいものはほとんど手に入れる事が出来た。
「……嬉しそうだね」
「顔に出てるか?春に比べて少しは変われたかな?」
「……ふふふ。さあ?それを確かめるなら周りを見てみたら」
ダンスを踊りながら周りを見渡すと、誰もが俺たち兄妹に見惚れて動きが止まっていた。
時たま聞こえてくるのは「うわぁ……」などの呟きでありそれは男女問わずである。
「どうやらようやく新菜と対等の立場になれたようだ」
「何言ってるの?私は最初から最高のお兄ちゃんだと信じていたよ」
得意気な表情から穏やかな笑顔を浮かべてお互いの顔を近づけ踊る。
曲が終わりをつげようとした時に新菜に優しくこう尋ねる。
「俺と結婚してください」
「……はい。よろしくお願いします」
こうして俺は世界一大切な妹と幸せを一緒に手に入れる事が出来た。
もう誰もミスターゼロと呼ぶ事は一生ないだろう……
終わり
完璧な妹に育成されるダメな俺!? スズヤギ @suzuyagi
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