第58話 キャンプファイヤー
「じゃあまずは予想通りのグランプリ、如月新菜さんからインタビューするよ!」
「おめでとう!結果は圧倒的な勝利だよ。優勝候補が棄権する中なぜ出場してくれたのかな?」
「ありがとうございます。キャンプファイヤーで最初のペアで踊るためです」
うそ?単なる思い出作りだの言ってたけどダンスが目的だったの?
「なるほど。でもミスターの優勝者は誰になるかわからなかったんだよ?」
「お兄ちゃんが出場する時点でもうわかってましたから」
ううう涙出そう。こんな俺を信じて自分の身を危険にさらしてまでミスコンに出ていたなんて。
「さすが天使様は違うわね!じゃあ今度はお兄さまの方にインタビューしようかしら?今回は3連覇をを狙う優勝候補を倒した勝因はなにかな?」
優勝が決まってからずっとそれを考えていた。
ミスターゼロと呼ばれていた俺が半年やそこらで簡単に優勝できるわけがない。
考えてみれば今日の学園祭はいろいろとおかしかった。
メイド喫茶では男子で俺だけがメイド姿になっていたし、演劇では男女逆転の2人劇。
新菜とふたりでライブをやって、最後にミス&ミスターコンテスト。
「勝因は・・・俺のために頑張ってくれた仲間のおかげです。おそらく1、2年生の男子票が勝敗を分けたのでしょう。だから優勝はみんなのおかげです」
「え?それはどーゆー事ですか?」
「野暮なことは聞いちゃダ・メ・だ・よ」
そろそろ開放してもらいたいので司会者の頭を撫でて顔を近づけた。別になにかしようとした訳ではない。
「総合司会お疲れさま。盛り上げてくれてありがとう。おかげで卒業前にいい思い出が作れたよ」
「あわわわ」
言葉にならない声をあげて真っ赤になりながら見つめ返してくる。
「さあラスト締めて」
「ミス&ミスターコンテスト!これにて終了!」
わーーーーーー!!!!
こうして長い長い学園祭は幕を閉じ……ぐぇ!?
ほっと胸を撫で下ろし無防備になった鳩尾に、不意にこぶしが入る。
目の前には不自然なくらい笑顔の新菜が立って、拳を突き出していた。
いつから格闘小説に……
「コンテスト終わって他の女子に色目使ったらダメじゃない?」
「色目って…女子の必殺技じゃないの?」
「お兄ちゃんはまだまだ自覚が足りないようだね。もっともっとわたしが教育してあげるから覚悟してね〜」
不敵な笑みを浮かべる妹だけど、体はゾクゾクして不快じゃない自分がいた。どんなプレイだよこれ?
「……お願いします」
すでに立場は逆転してる気もするけど、新菜の言う事に間違いはない……たぶん。
* * *
学園祭のイベントも残すはキャンプファイアーとペアダンスのみになり、会場の校庭にはたくさんの生徒が集まっている。
どことなくみんなソワソワしているような……
「みんなの目当てはペアダンスさ。毎年この行事でたくさんのカップルが生まれるのよ」
実行委員でもある生徒会長の香りが俺の横に来てそんな事を言った。
「告白するきっかけにはもってこいだしな」
微笑みを浮かべながらコクリと頷くとその後は少し寂しそうな表情になっていた。
「結局3年間わたしには無縁だったけどね…」
そんな言葉を残して最後のイベント準備に戻る薫に、かける言葉が見当たらなかった。
「グランプリがそんな表情じゃ盛り上がらないよ!」
不意に背中をドンと叩かれてバランスを崩し顔を上げるとそこにはいつも笑顔で元気な結衣の姿が。
「キャンプファイヤーの日で焼き芋作れるかな?」
「色気より食い気かよ」
軽い冗談のつもりが予想もしない反応で返される。
「わたしだって……女の子なんだから…なんてね!」
一瞬くらい顔をしてすぐに笑顔でもまた後でと一言だけ残して足早にその場を去って行った。
「いい友達に恵まれて良かったね」
「ああ」
少し離れたところから様子を伺っていた新菜が優しく微笑んでいる。
「妹に恵まれたのが一番だけどな」
「が、学校で妹をナチュラルに口説くお兄ちゃんの……バカ」
ミスコンで堂々としていた後にこの反応は反則級だ。
「さあそろそろ始まるみたいだし、行こうか?」
「うん!」
新菜の手を取りミス&ミスターコンテスト優勝者として輪の中心へと進んで行く。
やがて音楽が鳴り出すと俺たちふたりは踊りだす。
美男美女のふたりが優雅に舞う姿を見て、周りからは感嘆の声が上がっていた。
そして気付けば次々と周りのカップル達も踊りだしていた。
ダンスは全部で5曲らしく2曲目が終わった時だった。
「ほらお兄ちゃん行ってきなよ。今回はいいと思うよ」
「サンキュー、ちょっと行ってくる。最後の曲は一緒に踊ろう」
俺の心を察したらしく背中を押された勢いでグランドの隅にいた結衣と薫に俺は声をかけた。
このふたりに今日は助けられた。形に残る恩返しになれば……
キャンプファイヤーもクライマックスが近づいていく……
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