第57話 ミスターコンテスト

 ミスコンテストを見てだいたいの流れは理解した。

 1、2年生の頃は学園祭にほとんど参加していなかったので、少し面食らっていたのだ。 


 「さて可憐な乙女達は少し待っててくれるかな?次はミスターコンテストだよ!」


 司会の子は先程と違いテンションが高いってよりも、なんだかそわそわしている。


 「じゃあ今度は男子だから積極的にリードをしてもらうよ!私をまずは口説いてから、自分のアピールしたい人にメッセージを送ってね!」


 うん職権濫用だね。司会者の目が右往左往と泳いでいた。

 女性を口説くなんてやった事ないし、好きな人以外に冗談でも偽りの気持ちを伝えられるわけがない。

 マイナスポイントだろうけどここは譲れない。


 順番に呼び出されみんなが司会者の女の子を口説く。

 なにこれ?見てる方が恥ずかしいんですけど……

 口説き方が悪いと振られて笑われるっておまけ付きだった。


 「じゃあ次は現在2連覇中の御堂筋くんお願いします!」


 たぬきち君の名前がコールされた。


 するとたぬきち君は司会者の両手を握りしめてこう言い放った。


 「あなたは非常に美しい。私にはあなたしか見えない。あなたの全てが欲しい……」


 「はい……全て捧げます。今年度も優勝は……」


 暴走しかけた司会者を運営委員達が慌てて制止する。

 まるで洗脳だよこれじゃ。


 舞台脇から見ていた俺は非常に胸糞が悪くなった。

 理由は分からないが、とにかく今見た光景が許せない。


 ハプニングがあったのち、5分程中断したミスターコンテストが再開された。


 「み、みんなお待たせしちゃったかな?じゃあ続きを始めるよ!」


 変わり身はや!

 俺にはとても真似は出来ない……真似したいとも思わない。


 「じゃあ次で最後だよ!夏休み明けに突如現れた美少年……如月勇樹(きさらぎゆうき)くん!」


 小っ恥ずかしい紹介をされステージ中央までゆっくりと歩いていく。

 まるで競走馬が競りで品定めされる気分だ。


 すると観客席では驚きやどよめきが起こっている。

 どうやらプロのスタイリスト並みに髪をセットしてくれているので、モデルクオリティを発揮しているようだ。


 新菜にほんと感謝しなくては。


 「おう!これは眩い光を放ちながらの遅れてきたラスボス王子様の登場だ!!」


 ちょっとそこまだ大げさにされると褒めてるのかけなされてるのか判断つかないんだけど。

 さっきの言動からきっと2年連続優勝者のたぬきち君派なのだろう。


 そして出場者がこなしてきた課題が俺にも出される。

 うん……やっぱり嘘でも好きでもない相手を口説くなんて出来ない。たとえこれがゲームだとしても自分らしくていいじゃないか。

 今回は違う意味で空気を読まないけどミスターゼロの時と理由が違う。


 大きく深呼吸をし司会者をじっと見つめる。


 「あぅ……」


 真剣な眼差しで見つめただけで、さっきまでノリノリだった彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 「ごめん。本気で好きな相手しかやっぱり口説けないよ」


 勇樹はそっと彼女の頭を優しく撫でてあげる。 


 「ふにゃ……」


 口説かれたわけでもないのに、彼女はすでに意識が朦朧とするほど心ここにあらずだった。

 うるさいだけの司会者は恋する乙女になってしまったのだ。

 

 ここで非常に危機感を抱いている男がいた。

 2連覇中の御堂筋だ。しかし彼は慌てず自分の親衛隊へと合図を送る。


 「おい!ミスターゼロ!また空気読まずに自分の世界か?」


 「そうよそうよ!ちゃんとみんなに合わせて同じ事しなさいよ!」 


 なんだか不穏な空気になってしまったけど、これ優勝出来ないかも?まずい……


 困惑しどうすればいいかわからない俺が立ち尽くしていると……意外なところから助け船が出される。


 「勇樹先輩気にしないでください!先輩のおかげで理系に進む事が出来るようになりました!」 


 あれは……夏休み明けに数学の勉強方法を教えてあげた2年生の女子生徒だ。

 進路の事で悩んでる時に話を聞くと、親から文系を勧められ好きな理系を諦めかけて落ち込んでるところを声をかけたのだ。


 「先輩!先日はありがとうございました!」


 今度は1年の男子生徒だ。俺の出てる雑誌を見てモデルになるにはどうしたらいいか相談にのってあげたのだ。


 それからも続々と会場からは声が上がる。

 う……嬉しいような恥ずかしいような……


 「みんな!落ち着いて!王子さ……勇樹くんの行動も立派に課題をこなしてるから問題ないよ!」


 え?今さりげなく王子様って言おうとしたかと思えばちゃっかり名前で呼ばれてない?

 まあ失格にならなくて良かった。


 しかも地道に困ってる人を助ける運動が功を奏してるみたいだし。


 たぬきち君がすごく悔しそうな顔をこちらに向けてくるけど、俺がみたいのは新菜の笑顔だけだ。


 「これで全員アピールタイム終了!じゃあ集計も終わったみたいだし今年のミス&ミスターを発表するよ!」


 「みんな!準備はいい?」


 「「イエィーーイ!!」」


 新菜が俺の方を向いて微笑んでいる。

 この微笑みにいろんな意味が込められてるような気もするけど、後で聞いても教えてもらえないだろう。


 「今年の!ミス&ミスターは……」


 いきなり一緒に発表しちゃうらしい。


 「如月兄妹!!!!」


 兄妹?省略されて一瞬分からなかった。

 会場を見ればみんなが笑顔で祝福の拍手をしている。

 結衣や薫なんか泣いてるぞ?


 「やったね!お兄ちゃん」


 「ああ。俺なんかが信じられないけど……」


 「ううん。お兄ちゃんは最高のお兄ちゃんだから!」


 とびっきりの最高の笑顔を見て俺も優勝したんだとようやく実感が湧いてきた。


 「グランプリのインタビューするからおふたりは残ってくださいね〜」

 

 まだまだコンテストは終わらないらしい……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る