第56話 ミスコン&ミスターコン

 まさかミスターコンテストに出るようになるとは……


 半年前の4月全校生徒の朝礼を思い出していた。

 天使のような妹が入学してくる事に浮かれて、他人が俺達ふたりをどう見るかなんて少しも考えていなかった。


 ミスターゼロなんて呼ばれていたけど、新菜には関係ないと甘くみていたのだ。

 その結果……大切な妹を……泣かせて傷つけてしまった。


 今日は俺のリベンジでもある。


 誰もが羨ましくなるような『お兄ちゃん』。

 みんなが認めてくれればきっと結果はついてくるはずだ。

 髪は新菜が一生懸命セットしてくれた。

 前にスマホで参考にした芸能人にも負けないくらいのクオリティ。

 モデルのスタイリストさんに密かに教わっていたらしい。


 なんでも影で努力して身につける俺にはいいお手本だ。早く俺がお手本にならなければと思っているとーー


 遠くの方からニヤニヤした顔のイケメンがこちらへやってくる。


 「やあ初めましてお兄さん」


 「俺には目に入れても痛くない可愛い妹しかいないが?」


 「これは失礼。未来のお兄さんでした。ミスターコンテスト2連覇中の御堂筋(みどうすじ)と申します。妹さんはいただきますのでご了承を」


 昔の俺だったらこの軽い挑発にのってしまっただろう。

 しかし今は違う。俺には仲間がいる。大事な妹がいる。


 「人の気持ちや想いは軽くはないんだよ。ましてや新菜は物じゃない。人の心をもっと勉強するんだな」


 俺は不思議なくらい冷静で落ち着きはらいその場を後にした。



 * * *



  「さあみなさんお持たせしました!学園祭最後を飾るのは……ミス、ミスターコンテスト!!」



 ワーーーー!!!!


 こ、こんなに盛り上がる企画だったのか。

 ほとんどの全校生徒が集まっていて盛り上がりも異常だ。

 自分の推しを応援するためハチマキやらハッピ、さらにはお手製のうちわまで作っている。


 その中にはうちのクラスの連中もいた。

 結衣が先頭で最初は気付かなかったけど、クラス全員が俺の名前の横断幕を掲げてお揃いのハチマキとTシャツを着ている。


 あんな嫌われ者だった俺の為にみんなが応援してくれるなんて……。目頭があつくなるのをなんとか抑えて気を引き締める。

 これで新菜の為だけじゃない。みんなの為に期待に応えよう。


 「それでは予選を勝ち抜いたミス&ミスターの10人の入場です!」


 ???予選ってなんの事?


 「ここに揃った男女合わせて10人が9月の予選で人気投票による基準をクリアした皆さんです!!」


 夏休み明けからそんな事してたの?

 じゃあ出場の申込みはすでに9月に出されていたのか。

 今は結衣に感謝だ。たぬきち君を勝たせるわけにはいかないからな。


 俺も新菜もナンバー5をつけてお揃いで微笑み合う。


 「まずはミスコンテストから始めるよ!やろーどもは一旦引っ込んでくれるかな!」


 この司会ネジがとんでるな。

 すごすごとミスター候補が舞台脇へと追いやられていく。


 「さあ美少女達!準備はいい?さあご覧あれーーー!!」


 ここで疑問が…あれ?新菜は出てるけど、薫や結衣はなんで出てないんだ?

 ふたりも負けず劣らずの美少女で人気者なはずだ。


 「今年はふたりが辞退してるけど、間違いなく誰もが認める美少女達だーーー!!」


 そうか。辞退者はきっとふたりだろう。理由は分からないけど新菜にとっても負けられないな。

 しかし……この司会の女の子テンション高すぎだって。


 昔の結衣に似たタイプだから扱いやすそうだけど……


 ナンバー1の候補者から順番に4人がいろいろな質問をされいじられある意味撃沈していった。

 ミスコンで出場者がここまでテンション下がるって聞いた事ないけど、新菜は大丈夫だろうか?


 「さあ最後はみんなお待ちかねの天使!新菜様の登場だーーー!!」


 プロレスラーの紹介かよ。

 名前を呼ばれると新菜がこちらを見てウインクをする。


 あ、もうダメ……可愛すぎる。優勝!絶対優勝!


 気付けば、たぬきち君がすごい形相で俺を睨んでいる。

 たぬきち君に恨まれる筋合いはないけど少し気分がいい。そのためかダーク勇樹が顔を覗かせる。


 「自慢の妹なんだ。甘えん坊でな」


 歯が砕けるくらいの歯ぎしりをたぬきち君がする。たぬきが歯ぎしりするんだろうか?

 

 「如月新菜(きさらぎにいな)さんようこそ!じゃあ最初の質問だよ?自分の体で好きなとこは?理由も教えてね!」


 「目です。大好きな人をずっと見れるから」


 「聞いたかやろーども!満点の答えじゃねーか!」


 司会……口調まで変わってるけど女の子だよ?


 それからも意地悪な質問を浴びるけど、新菜の回答はどれも清楚なイメージを崩さない完璧なものだった。


 「じゃあ最後に大好きな人を思い浮かべて素敵な笑顔をしてね!」


 そのリクエストを受けると、新菜はこちらを向くととびっきりの笑顔を見せてくれた。


 「最後までブレない如月新菜さんに盛大な拍手を!!」


 ワーーーー!!!


 「じゃあみんな投票にうつるよ!スマホの準備はいい?」


 は?今って高校のミスコンでもそんなハイテクとは思いもしなかった。

 どうやらコンテスト中も投票出来るらしく、すぐに集計が終わった。


 「結果発表は先にする?ミスターと一緒にする?」


 ノリで決めるのか。

 みんなパーティーピーポーみたいで怖いな…


 結局結果発表は同時に行われる事になった。 


 さあいよいよ俺の出番だ!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る