第55話 学園祭後半
午後になり今度はライブの準備の為に再び体育館へと向かう。
今回のライブは全部で5組のバンドが2曲ずつ披露するもので、ミスコンとミスターコンの出場の関係で俺と新菜はトップバッターの出番だ。
「最初だから盛り上げなきゃいけないし、プレッシャーだよー」
「そうか?他人の評価や盛り上げようとかよりいかに自分が楽しめるかだ。新菜と一緒の学園祭は最初で最後だから楽しみでしょうがないぞ?」
「そっかー。ラスチャンだったね!楽しもうねお兄ちゃん!」
ああ……お兄ちゃん。なんていい響きだ。
今日もこの言葉だけでご飯3杯いけるんじゃないか?
味噌汁の匂いもしてきた。
名前をいっそ「お兄ちゃん」に変えてしまいたい。
新菜も出会った時は「オニイチャン」だと思ってたらしいし。
楽器のチューニングも済ませて準備の最終段階に入った。
俺たちはふたりだけで洋楽のコピーバンドをやる。
今はあまりテレビを見ないし海外に住んでいた時間が長いので日本でも有名な『ジョンボビ』を演奏する。
アメリカでもボッチの俺はギターをひとりで弾いていたし、新菜はどんな声でも出せる天才だから男性ボーカルの声でも問題ない。
普段は清楚なイメージの新菜と陰キャの俺は、ロックな衣装へと着替えまるで別人になった。
ちょっとしたサプライズでみんなの反応が非常に楽しみだ。
「このボロボロのスカートとかタンクトップ少し恥ずかしい。お兄ちゃんの髪も銀髪で立ててるし革のタイトパンツも見慣れないから楽しいね」
「ギャップがいいよな?じゃあいい思い出作りに行くか!」
「イェーーイ!」
ハイタッチを交わして俺は舞台袖からギターのイントロを弾き始める。
わーーー!!!
大人しい曲のデュエットを想像していた観客達が一斉に歓声を上げはじめた。
ギターを弾きながらステージ中央へと移動していくとーー
「ギター弾いてる!」
「ちょいワル風カッコいい!」掴みはオッケーだ。
イントロが終わり、新菜が歌いながら中央へとやってくる。
ドドーーーーン!!
会場が揺れた。物理的だけではなく空気が、この空間全てが揺れた。
圧倒的な声量、高音から低音までの広い声域、普段とはまったく違う容姿ながらも気品とカッコ良さと可愛さが同居している。
改めて思う。全てが完璧な俺の妹は世界で一番の妹だと。
才能だけではない。普段からの行い仕草などはもちろん努力も忘れずに常に自分に厳しく妥協など一切しない。
開演からボルテージは最高潮だ。
洋画の中でも超有名なヒット曲なので、やがて大合唱が起きる。
なんだこの一体感は!?
ギターを弾きながら新菜に目をむけると笑顔でこちらに近づいてくる。
マイクをむけられここからは、ふたりで一緒に歌うと観客は美しすぎる兄妹を見て涙を流す者さえいた。
あっという間の2曲が終わった。
楽しかった。可愛かった。アドレナリンはいまだに全開だ。
「みんなありがとーーー!ミスコンの新菜も応援してくれ!バーイお兄ちゃんでした!」
テンションが上がりすぎてわけわかんねー!
自分じゃなくてつい妹が心配でシスコン全開丸出しになっちゃった。
みんなの反応はーー
「任せろー!」
「オッケー!!」
「お兄ちゃんも応援するよー!」
「みんなありがとう!じゃあ最後まで楽しんでね〜!」
こうして俺たちのライブは大成功で幕を閉じた。
だいぶ疲れもピークが近づいてきてるけど、
「このテンションのままふたりでグランプリとっちゃおー!!」
「おーーー!!」
新菜は俺のスタミナドリンクだ。
あ、いやらしい意味じゃないよほんと。
ファンキーな衣装から着替え終わると、新菜が更衣室の外で待っていた。
「このままでもカッコいいけど……ヘアスタイルとかセットさせて」
「新菜も準備あるし無理しなくていいよ」
「いいのー!みんなにお兄ちゃんの真の実力を見てもらうのー!その為に……モデルのスタイリストさんに教えてもらったの……」
俯きながら上目遣いで恥ずかしそうにこちらを見ている。自分も忙しいだろうにどこまでも尽くしてくれる妹は俺にはもったいないくらいだ。
ここまでされたら負けるわけにはいかない。
「じゃあ最高の髪型を頼むよ新菜……」
「うん……お兄ちゃん……」
お互いに見つめ合いながらゆっくりと顔を近づけていくと……
「あー!いたいた!ふたりともいちゃつくのは後だよ〜!早く準備して!……ひょっとしてお邪魔虫……だった?」
結衣が申し訳なさそうな顔をしているけど、俺にとっては大事な最初に出来た友達だ。
「邪魔なわけないだろ。ラストを俺達が華麗に決めるからよそ見せずに見てろよ!」
ちょっと嬉しそうな顔をして頷くと、
「じゃあ待ってるから遅れないように!」
結衣は走って会場へ戻っていった。
さあ最高のお兄ちゃんをみんなに披露してやるぞ!!
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