第54話 学園祭

 「いらっしゃいませ!ご主人様」


 「「きゃー!勇樹先輩かっこかわいい!!」」


 「うふふ、お兄ちゃん超似合ってるじゃない」


 うちのクラスのメイド喫茶に新菜がお友達を2人連れてやってきたのだ。

 かわいい妹の友達が一緒に来てくれたのだから全力でご奉仕いたします。

 ちなみにメイド服はもちろん、なぜか長髪のカツラまで用意され結衣の悪意が伺える。

 自分ではまあまあいけてる気もするけど、何かに目覚めてしまわぬように気をつけておこう。


 「ここまで可愛くなるとは思っていなかったよ!」


 ドヤ顔で悪の親玉である結衣が同じメイド姿でからかってきたのでーーー


 「結衣のミニスカメイドも可愛くて萌えてくるな」


 ちょっとからかってやったら頭から湯気が出るほど舞い上がってしまった。

 ん?背筋に冷気が漂って……あっ!


 「へー?萌えるんだ?萌えれるんだ?」


 新菜がいるのに調子に乗り過ぎてしまった。


 「なに言ってるんだよ?新菜がメイド服を着たら誰よりも可愛いに決まってるだろ。それに俺は妹萌え派だ!!」


 「そ、そんな大声でやめてよ。わかったから……じゃあまた後でライブでね!」


 恥ずかしがりながらも嬉しそうな表情でウインクをしてメイド喫茶を後にした。

 ウインクで腰砕けになりそうになっているとーー


 「勇樹くんこっちのテーブルご指名です!」


 ご指名って……彼らは……男子生徒だよ?

 誰かと間違えてるんじゃないかと思いつつも呼ばれたテーブルへ行ってみると、


 「ま、まじかわいいっす!」


 「い、一緒にスマホで写真撮ってもらえますか?」


 「男だぞ俺?」


 「もちろんです。勇樹先輩の美しさは学園祭で有名ですよ」


 男の俺が美しさで有名だと言われたところで微塵も嬉しいわけがない。メイド姿が知れ渡ってる証拠にしかならないだろ。

 廊下の入店待ちの列を見れば男女比率が同じくらいで驚いた。結衣は明るい人気者だから女子にも男子にもウケがいいのだろう。


 「勇樹くんご指名!」


 見れば今度は1年の男子数人だ。

 俺を指名するとは日本の未来が心配すぎる……


 こうしてメイド喫茶は予想外の来客者が多く来たので用意していた飲み物があっという間に終わり、HPをかなり削られながらも予定よりだいぶ早く俺は解放された。


 次は演劇だったっけ?


 会場へと向かうと生徒会長である薫が待っていた。


 「お疲れ様。衣装はこちらの控え室に用意してありますわ。なんなら一緒に着替えーー」


 「ひとりで大丈夫です」


 あらぬ噂が立たぬよう即答。


 着替え中に乱入される恐怖に怯えながらも準備完了。

 …………は?


 控え室を出るとしてやったりとドヤ顔の薫が立っている。


 「男女逆転の美少女と野獣」


 またか。今日はとことん女装に縁があるらしい。

 もともと口パクな上に、まったく練習などしていないので配役が直前に決まっても問題はない。

 この場合女装は問題にはならないのだろうか?


 美しすぎる野獣の衣装を身につけた薫が控え室から出てくると簡単な説明を受ける。

 ナレーションも台詞も薫が担当して話を進めそれに合わせて動くので難しくはない。


 負担は全て薫が背負っているが、新菜と並ぶほどの優秀な生徒会長にとってはたいした事ではないらしい。


 「ワンテンポ遅れて動いて大丈夫よ」


 おんぶに抱っこ状態である。


 「俺じゃなくてもこれならいいんじゃない?」


 「あなたじゃないとダメなの!」


 恋愛ドラマの一コマみたいに真剣な眼差しで言われたので従うことにした。


 今まで学園祭とは無縁な俺を誘ってくれたのだから逆に感謝しなくては。


 物語はどうやら前半部分と後半部分のみを演技する斬新なもので盛り上がる部分のみのいいとこ取りだ。


 鏡を見ればドレス姿の美少女が写っているが、これが魔法の鏡じゃなければきっと俺なんだろう。

 横にはかわいい角をちょこんとのせた野獣?が鏡の中で微笑んでいる。野獣ってより可愛いすぎて妖精だよこれ?

 どうみても妖精だけどなんだか嬉しそうだから突っ込むのはやめておく事にした。


 「じゃあ行きましょうか!いい思い出作りましょう!」


 「おう!よろしくな!」


 幕が上がっていくーーさあ開演だ!


 ワーーー!!

 うそ?2人だけの小規模な劇なのに会場の体育祭は超満員じゃん。


 そこまで期待されると困る……と思ったのは最初のうちだけだった。

 薫のナレーションに始まり美少女役の俺の台詞、そして野獣の男性的な声と様々な声色を鮮やかにやってのけたのだ。


 こんな天性の才能があったことに正直驚かされた。


 そしてラストシーン。


 ラストは照明が落とされてのキスシーンだ。

 するふりだけでもやはり緊張する。


 最後の台詞を読みゆっくりと顔を近付けてくる。

 うわ!顔が!目の前まで迫ってきてる!

 照明がまだ落ちてないんだけど!?


 薫は小悪魔的な笑みを浮かべて、そっと俺の頬に口づけをした。会場からはキスしてるように見えているだろう……


 きゃーーー!

 パチパチパチ!!!


 黄色い声援とともに破れんばかりの拍手が会場中に鳴り響いた。


 幕が下されると薫が一言呟いた。


 「今日はこれくらいのイタズラ……許してね。」


 どうやら最初から照明の指示はしていなかったらしい。

 これだけ薫はほとんどひとりで頑張ったのだからイタズラなんて些細なものだ。


 「すごく頑張ったな。ありがとう」


 お礼とともに無意識につい頭を撫でてしまった。


 「ほえ!?」


 さっきまで生徒会長であり劇の主役でキリッとしていた姿はなりを潜めて、顔だけでなく耳まで赤くなった女の子がそこには立っていた。


 午後からは新菜とのライブとそして運命の……


 学園祭はまだまだこれからさらに盛り上がっていく。

 

 

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