第9話 アイドルバトンリレー
あたしは、横に結んだ気に入っている艶やかなブラウンの髪と赤いハチマキをもう一度解けないか、よくチェックをしてスタートラインに立つ。
『おまたせしました!みなさん残念ではありますが最終種目“アイドルバトンリレー”です!』
通りの良いマイクから司会者のハイテンションな声が運動場に響き渡る。隣にはマスコットキャラのコフキくんがぴょんぴょん跳ねてはしゃいでいた。
「エリカさん!がんばって!」
「応援してる暇があったら早く指定の場所に行きなさいよ!」
のんきに応援なんかしている香奈子に一喝すると、ぱたぱたと小走りで第三走者の場所まで走っていく。
そう、第三走者の場所へ。
これは作戦なのだ。どこの誰かは知らないけれどあたし達を妨害しようとしている奴らがいるのは確定してる。
香奈子はただでさえ運動神経が良いとは言えない。しかし全員参加のバトンリレーなため5人メンバーがいないグループはローテーションで走るのがルールになっているのだ。
一番最初に二人分…つまりトラック一周あたしが走って第三走者だけ香奈子に走らせる。
あたしなら多少引き離されても平気。巻き返せるもの
『コフキくん!合図を頼むよ~!』
『コフコフ~☆』
マスコットキャラが上空へ向けて合図用のピストルを構える。
絶対勝つ、そして最後の優勝者ステージで目立って
パァン…ッ!!!
カラッとしたピストル音が響き渡るとその瞬間全速力で走りだした。
参加グループは全部で7グループ。あたしはどんどんそいつらとの差を広げていく。
トラック一周走り切ったところで第三走者で待つ香奈子にバトンを向ける。
小走りで助走を始める香奈子にバトンを渡した。
「全力で走りなさいよ!香奈子!!!」
「はいっ!!」
返事をして走りだす香奈子を見ながら息を整えて第四走者へ急ぐ。
香奈子のスピードは遅いが、さっきあたしが引き離したおかげでギリギリ抜かれることもなくいけそうだ。
汗をにじませながら眉を下げ息を荒げてバトンを向ける香奈子に笑みを浮かべる。
—やればできるじゃない。
しかしその瞬間、香奈子の後ろを走っていた黄色いハチマキを巻いたアイドルが思いっきりぶつかったのだ。
「キャッ!!」
ぶつかった衝撃で地面に転んでしまう香奈子、あたしはすぐに駆け寄り声をかけようとすると転んで砂まみれになった香奈子がバトンをバッと差し出しだしてきた。
「行ってください!エリカちゃん!」
ちゃん呼びしていいって誰が言ったのよ。
やっぱ、あたしアンタのこと嫌いだわ。
バトンを受け取るとあたしは力の限り全速力で走り始める。
前にいるのは黄色いハチマキをしている香奈子を転ばせた、あれは開会式のときにいた人気アイドルのセンター。
そいつらにどんどん追いついていく。
「ッ!早っ…!」
背後を確認してきたそいつに笑みを浮かべて追い抜くと目を丸くさせ悔しそうにあたしの背中を睨みつけていた。
ざまぁみろ。あたしに勝とうなんて100年早いわよ
「うざいんだよ!無名のクソアイドルがッ!!」
その怒鳴り声と共に、ゴールテープに一歩足を踏み入れた瞬間、背中に思いっきりタックルされあたしは豪快にすっころんでしまった。
「ッ!!!?」
「エリカちゃんっ!」
香奈子が叫び駆け寄ろうとするも、あたしはなんとか起き上がり「来るな」というように睨みつけた。
そしてカメラに向かって笑顔を向けて全力の可愛らしい声を作る。
「スライディングゴール?みたいな?ハプニングはつきものですよぉ~っ」
そう笑って顔についた砂をぱぱっと可愛く払って見せれば、会場がドッと沸いていく。
『1位はなんとスライディングゴールを決めてくれた今日デビューしたて一年生!エリカ&香奈子ペアだー!』
拍手と笑い陽気な音楽が飛び交う中、ズキズキと足首の痛みがあたしを襲っていた—…。
****
「大丈夫ですか?」
「全く無茶しすぎだぞエリカ!」
救護テントで足首をアイスノンで冷やしているとマネージャーと香奈子が入ってきた。
「うるさいわね!勝ったからいいでしょ!」
「怪我したのか!痛むか…?」
「こんなの大した事ないわよ…」
それは嘘だ。本当は痛くて、ここにくるのだって苦労した。
顔を見合わせる柊木と香奈子。
「…ステージ立てそうか?」
「…………香奈子。」
言いたくない。こんなこと。
「は、はい…。」
あたしだってステージに立ちたい。
「この通りあたしはステージに立てない。」
ずっと夢にみて、オーディション落ちまくって。あれだけ…!!!………したのにっっっっ!
「…だからあんただけでステージに立ちなさい。」
昭和アイドル令和アイドルになる!? バビブ @babibu888
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