第8話 トキメキアイドル大運動会2020
パンパンっと空砲の音に似た花火が上がり特設ステージには、ド派手なスーツを着た司会者と番組のマスコットキャラなのだろう、耳の垂れた特徴的な犬の着ぐるみがカメラに向かって手を振っている
「さぁ、始まりましたッ!トキメキアイドル大運動会2020!今回は、なんと総勢10組のアイドルたちが優勝目掛けてギュンギュン突き進んじゃいま~す!コフキくんは準備はいいかな?」
「コフコフ~っ!」
コフキくんと呼ばれた犬のマスコットキャラクターはぴょんぴょん跳ねて喜びを表現している。
「みんな!
「おーー!!!」
声高らかにアイドルたちに向かって司会者が腕を上げ問いかけると可愛らしい声でそれぞれポーズを取りつつ声を上げ答えるアイドル達。
その瞬間、特別モニターに別室で待機しているFelpuriの昌が映し出され更に特設ステージは盛り上がる。
『みなさん、こんにちは。Felpuriの昌です、どのグループが僕たちとMVに参加するのか楽しみです。がんばってください』
昌がにっこり笑顔を向けるとアイドルたちが黄色い歓声と共に「はーい!」と声をあげるも、モニターをみていた香奈子が思わず口元を抑える。
「北校舎の人…。」
「は?なにそれ。」
つぶやく香奈子に隣にいた、意味が分からないエリカは怪訝そうに見つめ取り繕うように首をふるふると振り香奈子は誤魔化した。
映像が終わると司会者は左から順番にアイドルグループの紹介と軽いインタビューをしていく。そんな姿を一番最後の順番位置からみているエリカと香奈子。バッと香奈子をみたエリカは車から取ってこさせたライトピンクのリップの唇を輝かせながらひそひそ耳打ちをする。
「いい?ただでさえ、あたしたちは知名度がないんだからインパクトのあることを言わなきゃダメなのは分かるわよね?」
「ええ、でも具体的にどんなことを言えば…」
「そうね、なんかこう…将来はりんごになってりんご国のお姫様になりたいです~♡…みたいな感じ」
「どうしてりんごになるんですか?」
「いいから言うの!わかった?」
納得の言ってない香奈子は、りんごになる意味を考えつつマイクが回ってくるとエリカがいままでにない可愛らしい声を出し始め。
「今日デビューした、本条エリカと清水かなこですっ。今日は一生懸命がんばるので応援してくれるとうれしいですっ」
「……あ、りん………、よろしくお願いします。」
エリカの変わりようにびっくりしたように見ると、そのせいでりんごになりたいといい損ねてしまいせめてもとぺこりと頭をさげる香奈子。
カメラが二人の体操服の胸元にあるネームプレートを映す、そこには“清水香奈子”ではなく“清水かなこ”と表記されていた。社長のリアーナが流石に昭和の伝説アイドルと同姓同名はまずいだろうと名前の部分だけひらがなにしたのだ。
「へぇ、かなこちゃんはあの昭和のアイドル清水香奈子に名前だけじゃなく顔なんかもよく似てるねぇ、懐かしくなっちゃったよ」
「よく言われます。ふふ」
司会者に話を振られるとカメラには慣れているため口元を軽く隠しながら微笑みを浮かべて答えては紹介も終わり一度カメラが止まり、競技が行われる運動場へと向かう。
各種目のリレー以外はグループから選ばれたメンバーが参加し順位によって得点が加わっていくシンプルなルールだ。
ちなみにプログラムの内容はこうである。
開会式
ドキドキ!玉入れ勝負
アイドル障害物競争
気合だ!大玉転がし
ひけひけ!綱引き
アイドルバトンリレー
閉会式
「さすがローカル番組って感じ。競技名がだっさいわぁ…」
待機テントでぼやきながら足を組んで手鏡で髪を整えているエリカ、隣でプログラムの紙を眺めている香奈子。運動場では人気グループが開会宣言をしておりデビューしたての香奈子たちは勿論、人気が低いグループはテントで待たされていた。
「あんたは綱引きと最後のリレーだけ出て、他はあたしがでるから。いい?」
「え…。でもエリカさんだけじゃ大変なんじゃ」
「いいから言う通りにして」
昭和からきた香奈子は未だこの時代のことを把握しきれていないためエリカの言葉に頷き任せることにすると、エリカは通常二人以上で出る玉入れと大玉転がし、個人種目の障害物競争で全て1位を取り毎回、香奈子は一位を取るたびにエリカに手を振り喜び、カメラにも比較的抜かれて上出来といえる結果を出していた。
「どうよ、見てた?香奈子」
「すごいすごいっ!エリカさんすごいですっ、こっちまで熱くなってきちゃいましたっ」
「まぁね!あたしにかかればこんなもの余裕よ、余裕」
そんなはしゃぐエリカたちの様子を遠巻きで見ている、開会式に出ていた人気グループのメンバー。ヒソヒソと話しながら睨みつけていた。
「ちょっと調子に乗りすぎじゃない?アイツら」
****
「さて、次は“ひけひけ!綱引き”です!5グループ対5グループの対決見逃すなよー!!」
特設テントから司会者が景気よくマイク越しに叫べばスタッフに事前に決まった青と赤の2グループに分けられ香奈子たちは青グループに集まり。
「ここのポイントはあきらめるしかないわね。でも手を抜かずにやってよ香奈子」
「はい、頑張ります!」
入場の音楽が流れ小走りに出ていくとテープで目張りされ指定されている縄の位置に座る。
各々、縄を握るとスタッフの笛の合図で一斉に引っ張り始め、最初は香奈子たちの青グループが優勢だったが次第に押され赤グループが勝つとカメラがそちらに集まる。
その瞬間、エリカの長い髪に手が伸び…
「いたっ…!」
エリカはブラウンの艶やかな自慢の髪を思いっきり引っ張られ、その衝撃で尻餅をついてしまう。それに気づいた香奈子が振り返るも一瞬のことで誰が引っ張ったか特定するまでには至らずエリカを見やり。
「大丈夫ですか?エリカさん…!」
「…大袈裟。騒がないで」
香奈子を制するように答えると、大方1位を取り続けている自分が気に入らない連中がいるのだろうと察してはヘアゴムで髪を横で結び、妨害されないようにしていくエリカ。
縄が元の位置に戻り、二回戦目の笛が鳴ると先ほどとは変わらず赤グループが勝利しテントに戻っていく面々。
歩きながらエリカが香奈子に耳打ちする。
「多分、あたしたちが気に入らない連中がリレーでも妨害してくるかもしれないから気をつけなさいよね」
「え…柊木さんに言った方が…」
「馬鹿!そんなことして仮に人気グループの連中だったらどうすんのよ!うやむやにされて事務所の圧力で消されるわよ!」
「そんな…」
ちらりと香奈子がマネージャーの柊木のほうをみれば、気づいたのか軽く手を振り返してくる。相手に手を緩く振り首も横に振って見せ、なんでもないと伝える香奈子。それをみていたエリカが肩を掴み後ろを向かせる。
「とにかく最後のバトンリレーで1位になりさえすれば、こっちのもんよ。気合いれていくわよ!」
「でも、綱引き以外はエリカさんが1位でしたよね?」
司会者がマイク越しにまた声を高らかに叫び出す。
「いよいよ最後の種目!“アイドルバトンリレー”!1位のグループは、なんと得点が5倍になりますー!」
香奈子は司会者のほうをみながらきょとんとしてエリカを見ると、それ見たことかと香奈子をみているエリカ。
「こういうことよ。」
「この時代にもまだやってたんですね…意味のない得点制。」
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