おまけ

「志乃さんはずるい!」


 あずさは身を乗り出し、机に手を付いて対面の志乃に詰め寄った。


 良蔵の家の客間でいきなりそんな事を言われた志乃はきょとんとして、反射的に尋ねる。


「……何が?」


「志乃さん、なっちと付き合い長いんでしょ?だったらなっちの面白いところ、あたしよりいっぱい知ってるでしょ」


 志乃は視線を右上に流し、「あー……」と一人ごちた。


「やっぱり!ねえねえ、ちょっとでいいから教えてよー、いいでしょ?」


 志乃は食い下がるあずさの前で、ずずずと茶をすすった。


「……なんで教えてほしいの?」


「なっちがあれこれ知られておろおろしてるトコが見たい」


「直君は薄味な食べ物が好きで、特に鳥のササミが好物でね」


「結構すらすら話したね!?ねだっといて何だけど!」


 あずさはすとんと尻を座布団に下ろし、視線で話を促した。


「キャッチボールは嫌いなんだけど、フリスビーは反応がいいんだよね。なんか投げるよりも受けとる方が気持ち活き活きしてるの」


「犬じゃん、もう」


「犬なんだよねぇ」


「ハウルだよ」


 台所からおかきの詰まった器を持って現れた良蔵が間に入った。


 良蔵は二人の間に器を置き、不思議そうに二人を見回す。


「というか、二人とも仲がいいねぇ」


 その言葉は疑問を含んだもので、二人がこれに怪訝な反応を示した。


「よくないの良爺?」


「いやあ、二人とも直君を好いてくれてるみたいで、俺としてはうれしいんだけど、ほら、ねえ?あのー……」


 言いづらそうに口を濁す良蔵に、ああ、と志乃が合点がいったように声を上げた。


「同じ男を取り合う女二人が仲良さげなのが変って事ですか?」


「お、おおぅ……、ま、まあそうだね」


「あー……」


 あずさも理解し、小さく何度も頷いた。


「あのね良爺、誤解だよ。なっち全然あたしのタイプじゃないよ」


「あたしも」


 良蔵は目を丸くして二人を見比べた。


 二人に嘘を言った様子はない。


「え?ええ?でも……え?」


「あくまでなっちは友達だし」


「からかいはしますけどね」


 あずさと志乃は互いを見やって、示し合わせたようにふふふと笑った。


「……っはーぁ、そうか。いやぁごめんごめん、俺誤解してたよ。恥ずかしい。てっきり……」


「でもね」


 志乃が静かに口を開いた。


「今は友達ですけど、いいなって思った事もあります。もし直君が今よりずっと頼もしくなったら……、ちょっと考えちゃいますね」


「そしたらあたしも黙ってないかも」


 食いつくようにあずさが言った。


 志乃があずさの方を見る。


 あずさもじっと志乃を見ていた。


 二人は互いを見つめたまま、示し合わせたようにふふふと笑った。


 二人に嘘を言った様子はない。


 良蔵は静かにその場を後にし、台所へと引っ込んだ。


 たまたま居合わせた長瀬と目が合い、彼はぽつりとこぼす。


「女の子って、怖いね」


「今頃気付いたんですか?」




「へっぷし!」


 直は背中に走るうすら寒いものに、思わず道端でくしゃみをした。


 冷える鼻腔に痛みを覚え、鼻をすする。


 噂される覚えに首を捻りながら、彼は面接帰りの道で足を速めるのだった。

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僕と喋って!~三分通話しないとヒーローになれないんです~ コモン @komodoootoka

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