エピソード7 嘘からでるもの

 セイヤは嘘つきだ。つまり詐欺または詐欺ぎりぎりの商売で荒稼ぎしてきた、

 妄言をはくだけの人間ならそんなに成功はしなかっただろう。

 彼はほとんど直感であるが、相手にあわせた嘘がつける。初対面で彼を疑うには、そういう巧妙な嘘つきに何人もあってないとむずかしい。

 そんな彼もとうとう逮捕されて服役している。議論はたえないが、服役の方法は本人の体はタンクの中で健康を整えながら没入型ゲームのモブをやるもので、男性と女性で参加するものの選択肢が違う。セイヤが入ったのはファンタジーゲームで文明のレベルは前近代的な剣と魔法の世界。モブに魔法適性がやどることは滅多にないし、あってもたかが知れている。剣もそうだ。だが、頭と話し方は本人次第だ、セイヤはしばらくとまどってからこの世界を楽しむようになった。もちろん詐欺で面白おかしくである。

 あんまりやり過ぎると自動生成されるクエストに巻き込まれるし、実際、それで二回ほど命を落とした、一所に長居するのは得ではない。三人目が少しだけ剣が使えるのを幸い、セイヤは旅の冒険者としてあちこちで詐欺を働いた。

 たとえばこんな具合である。依頼を受けた冒険者のふりをして歓迎を受け、そのまま逃げさる。魔物退治ならあらかじめ用意した討伐部位を出して討伐したという。その部位はどこかで拾ったものや、手伝いの分け前としてもらったものでだまし取った保管袋にいれておけば時間がとまるのでいつ討伐したのかわからない。基本的に一人で行動する。そのほうが後腐れがないから。

 だが、プレイヤー向けイベントが始まったいまは一人つれていた。

「僕も勇者様のお供をしていいですか」

 目をきらきあさせてそう言ってきた少年はプレイヤーではないし、もちろん服役囚でもない。どこかの領主の四南坊で、剣と魔法どちらも使える駆け出し冒険者だった。親が口利きしてくれたモブ冒険者パーティに入るはずだったのだが、それが彼の参加の前に何かもめごとを起こして全滅してしまって途方にくれていたのだ。

 そこに魔王キャンペーンに便乗してインチキ勇者詐欺をしながら旅をしていらセイヤにであった。

 魔王キャンペーンは少し昔にいた「魔王」と呼ばれる人物、自分の国を建国し、土地を開墾し、都市もいくつも建国して覇業に乗り出したシステム外の精強な敵の通称だ。ただの侵略者ではなく理にかなった言い分もおおかったため、プレイヤーが両陣営に別れて魔王が討たれるまでゲーム内で十年を戦争するという大変なもりあがりを伴ったものだった。

 それを記念してのイベントで、あちこちに自称魔王が魔物や盗賊を手先に跋扈し、討伐レイドに参加した者は勇者の称号をえるというもの。ノンプレイヤーキャラクターも連れて行けるため、服役囚にもその称号をもっているものがいたし、セイヤもほとんど何もしなかったがこっそりまざってどうにか生存したので称号を得ていた。イベントの間は勇者称号を持つものは歓迎されるし、割のいい仕事ももらえる、それを利用してなめらかに嘘をついては荒稼ぎしてまわっていたのだ。

 少年がくいついてきたとき、セイヤは一瞬も迷わなかった。

「いいとも、一緒にいこう」

 もちろんどこかで有り金と金目のものだけもらって、置き去りにするつもりだった。

「君がのぞめば君もまた勇者になれるだろう」

 だが、そんなでまかせがでてきたところで、これはもしかしたら拾いものかもしれないと思い直した。

 実際、簡単な討伐依頼を受けて闘わせてみるとセイヤよりよほど強い。しかも、相変わらずのきらっきらした目で。

「本当です、勇者様のいうとおりにしたら強くなりました」

 なんていう。セイヤはもっともらしいでたらめをいっただけなのに、少年はその通りに行動してどんどん強くなって行った。

 なんでも鵜呑みに信じる少年は都合はよかったが、さすがのセイヤもそれでいいのかとちょっと心配になってきた。

 本当にでまかせでも何でも信じて、迷う事なく行動して本当にしてしまうのである。

 そこがすこし面白くなかったし、キャンペーンが終われば勇者の称号のもつ特典は小さくなるだろう。自称魔王がいなくなるし、稼ぎ口になるその手下もいなくなるし、本物の魔王恩顧の怒れる領主たちの気前の良さもなくなる。

 その前くらいに最後の一稼ぎをやって手をひくことになるが、そのときに少年をどうするかは非常に面倒な話だった。

 少年は青年といって外見になり、セイヤの今の姿よりずっと男前になっていたし、剣も魔法もモブといえない腕前になっていた。おだてたら本当に気配察知の達人になったので不意打ち含めて倒すことはできない。さすがに邪魔になってきた。服役囚が宿るなら組んで悪さをするのもいいが、これくらい強いと絶対そういうことはない。

 ちょうどいい機会は、すぐにやってきた。

 依頼主でもある一人の領主がセイヤに仕官をもちかけたのだ。彼らの参加した魔物討伐で領主の兵団長が戦死していて、後がまにどうだとさそわれたのだ。

 見込まれたのははったりほどもない剣の腕とでまかせがたまたまあたった指揮。もっともらしいことを言って断るところだが、彼は自分の代わりに少年を推挙したのだ。

 これは一番弟子であり、腕前は保証する、頭も悪くなく、少しの努力で敵の詐術を見抜き、味方を勝利に導くことのできる。そればかりか政治的な判断もできるようになることうけあいである。

 そんな感じでなめらかに、心地よい声で少年を持ち上げたのだ。

「でも、僕は先生とともにいたい」

 この期に及んでもきらきらしら目で無限の信頼をよせる少年。

「俺は一人で決着をつけにいかなければならないことがある。お前をつれていくことはできない。だが、可愛い弟子を捨てていくこともできずに悩んでいた」

 するすると嘘が出る、ここで腰をすえて領内の平和と人々の守護をしてくれるなら安心できると彼が説得した。

「大丈夫、おまえならできる」

 もちろん嘘だった。

 感極まった少年と、その気になった領主に見送られ、セイヤはそこで行方をくらました。

 かせいだ金のほとんどは手元にある。おとなしくしていれば刑期満了まで十分くらせるはずだった。

 ゲーム内で二年たった。イベントはあのあとすぐに終わり、いまは平常運行だ。だが、システムのものはいえ人々の生活は続き、プレイヤー、モブふくめた冒険者は魔物やモブ、服役囚ふくめた悪漢たちの起こす問題を解決している。

「待て」

 その役職にあるにはあまりに若い代官は非番の町の兵士と話をしていた行商人に声をかけた。何か売りつけようとしていて非番の兵士はその気になっていて、特に問題のない光景に思われた。

「その話、どこかおかしい」

 代官の顔を見た行商人が驚いたかおをしたが、安心したようににっこり微笑んだ。

「これはこれは。よくそんなことを言われるのですよ」

 そして口なめらかに売りつけるものの価値を語り始めた。

 がんっと行商人の荷物を蹴る音がした。

「聞くに堪えん」

 びっくりする行商人に代官ははきすてるように言った。

「貴様のいっていることは嘘ばかりではないか。余罪もあるだろう。城まで連行する」

「嘘ばかりってそんな」

「この場で切り捨ててもいいのだぞ。おとなしくくれば言い分くらいはきいてやる」

 若い代官はおろおろしている非番の兵士に二言で行商人の嘘を説明し、同僚に引き渡すまで連行に協力するよう命じた、

「話を、話をきいてください。誤解です」

「聞いてやるといっておる、いうておくが俺は勇者様に才を見いだされた者だ。お前の詐術など通用はせんぞ」

 異例の出世を果たした少年、いや青年代官は、おとなしくしていられなかったせいで姿の変わったセイヤを城の地下牢へと連行していった。

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