エピローグ 神内麗二のWay of life
放課後。気温が人間側の事情なんてお構いなしと上昇傾向にあったこの日、俺は屋上で夕焼けに照らされる街並みを一望していた。
「ここからの眺めはやっぱ最高だなぁ」
百万ドルとまではいかないが、手ごろに見れる素晴らしい景色だ。
「あれから、三週間か」
ゆ~わ~るどでの熾烈を極めた一件から三週間も経った。
幻尊さんは封魔立陣の儀式が終わった途端、俺に見事までの土下座を敢行してきた。瑠唯さんも怪我をした右手を抑えて泣きながら謝ってきたし、光華もそんな二人の姿を見て悪いのは自分だとまた泣き出すもんだから、自体の収拾をつけるがとても大変だったな。
まぁそれでも、瑠唯さんの怪我も大事へ至らずに済んだし、何より皆無事に帰れて本当に良かった。
そんで母さんのブレスレットは幻尊さんに登録解除してもらってから、自宅の仏壇に置いている。
光華から新しい物を貰ってあるし、同じ術式を重複して登録しても意味はないし、またなくしてしまったらかなわないからなぁ。
あと現状、霊媒師三人も廃墟へ除霊に出動する事態はなかったが、悪霊発生率が異常に高い昨今、人里離れた場所にある廃墟には神出鬼没で悪霊が出現しており、霊媒師たちが決死の除霊活動をしているのは変わらずだ。
「悪霊の発生を防ぐ霊術式ができればいいのになぁ――お」
回想していたところ、後方からドアが開く音がした。
出てきたのは、
「ごめん麗二、待った~?」
「すみません神内さん。お待たせしました」
光華に瑠唯さんだった。
「いや、全然だよ二人共。そんなに待ってねぇし」
今日ここへ足を運んだ理由は気分転換だけではない、大事な話があったのだ。
程なくして、俺がいる奥の方へ二人が来た。
「屋上か。久しぶりに来たけど、相変わらずいい眺めね」
「私は初めてです。空が赤くて綺麗……!」
瞳を輝かせた光華と瑠唯さんが、街を染める茜色に感嘆の声をあげた。
「だろ? ここならあんまり人もいないし景色もいいし、話をするには丁度いいと思ってな」
「ふふ、あんたがロマンチックなんてなんだか似合わないわね」
光華がいたずらっぽく笑う。失礼なやつめ。
「いいだろ別に。それより、例の件はどうなったんだ?」
「そうそう本題ね。暇ができた時にでも、父さんがブレスレットの登録霊術式を教えてあげるってさ」
「おおっマジか! やったぜ」
光華が背伸びをしながら告げた吉報に、俺は声を張り上げて喜んだ。
「――お?」
お次は瑠唯さんが俺の肩をちょんちょんとつまみ、口元に笑みを作った。
「それだけじゃありませんよ。例の霊通力の見定めの件ですが、私のお父様が今度直々に見定めてくれるそうです」
吉報が続く。俺の嬉しさケージはマックス有頂天に達した。
「なんとっ! いやぁ、ありがとうな二人とも」
二人へ心からの礼を言うと、
「ブレスレットの登録術式は初歩的な霊術式だからあんたでも出来るでしょ……てかありがとうね。霊媒師の現状を知ってるからやってみたいと思ってくれたんでしょ。協力者が増えるなら猫の手でも借りたいくらいだったから」
光華は照れくさいのか、頬を掻きながら喋った。
「仲間が増えるのは本当に心強いです。それに何より、その熱意をふいにするわけにはいきませんっ」
瑠唯さんが俺をまじまじと見つめながら、少々興奮気味に言う。
「少しでも霊媒師の力になりたいって、心から思えるんだ。俺みたいに霊感に悩んでる人がいっぱいるんだしな。いつかの光華みたいに助けることができたらなってさ」
ここ三週間で考えた。
霊感持ちの母さんの息子の俺なら、母さんとまではいかずとも霊媒師の活動に携われるハズだと。その件について光華と瑠唯さんに相談にしたのだ。
光華は幻尊さんに掛け合ってみるとのことで、瑠唯さんの方は俺が危機を救った功績もあり、由緒正しき瑠唯さんハウスへ正式招待されて霊通力診断を受けることになったのだ。瑠唯さんの御父上は人の霊通力を見抜くことができる実力派の神高位霊媒師であるのだと。めっちゃ緊張するが。
晴れて双方の許可が取れたというワケか。これで俄然とやる気が出るモノだ。
「ふふ、嬉しいこと言ってくれるわね。じゃあ、決意表明してくれた麗二の精進を祝ってやらなくちゃね」
一呼吸おき、光華の口がにんまりと三日月の形になる。
「え?」
瑠唯さんが目をパチクリとさせた。
俺も光華が何をしようとしているかピンとこなかったが、少なくとも突拍子のないことであるとは察しがついた。
「よーし、若い霊媒師が三人集った記念で気合い入れとでもいきましょうか。三人で円陣を組むわ!」
彼女は続けて声高に言い放ち、
「おわっ」
「キャアッ――光華!?」
矢継ぎ早に俺と瑠唯さんの首に手を回してきたのだ。
そして俺らの戸惑いなんて考慮もしないで、中腰になるように促してきた。
「ったくびっくりさせんなよ。しても屋上で円陣って、どんなシチュエージョンだよ」
何をしようとしているかは、手を回された瞬間にわかったけど。
「でで、でも円陣って、ここでやるんですか!? し、下には下校してる人とかもいるのにっ!?」
瑠唯さんは見るからに狼狽しており、顔色が空と同様真っ赤になっていた。
普段のキリッとした彼女とのギャップが実に微笑ましい。うん、萌えである。
「大丈夫よ瑠唯。ここからじゃ声は聞こえても誰がやってるとかは見えないからっ」
光華は楽しそうに瑠唯さんを宥めている。
あーもう。俺だって若干恥ずかしいが、結局やるしかないのだろう。
「瑠唯も大丈夫みたいだし始めるわよ。二人はあたしが叫んだら、腹から声を出して続きなさい、いいわね?」
だってあんな笑顔を見せられるとさ。光華にはやはり敵わないな。
「テンションおかしいしホント無茶苦茶だな……あぁもう、いつでもこいッ」
母さん。霊能力者としての生き方ってやつが見つかったよ。
俺はあなたのように、霊媒師を支えて生きていく。
霊感持ちの俺とクラスメイトのギャルが、廃墟で命がけの除霊を遂行します! 松岡蒼士 @mucc69
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