第二十九節 磔刑
ゴルゴダの丘に着いた頃には、日は高くまで昇っていた。もう少し登りそうなところが、不安を煽る。
傍に
「おい、誰だ、こんな悪戯したの。十字架に掛けられないだろ、縄を切れ。」
「いっっ…てえなァ!!! 背中が、えぐ、抉れてんだぞ!!! ちった、ぁ、気ィ使え!」
「喧しい、この馬の子が!」
鈍い音が聞こえる。
「おい、本当に八十回打ったんだろうな!? ピンピンしてるぞ、この変態ッ!」
「合いの子の兵士が、皇帝陛下に取り入る為にやったらしいから、適当に数えたんじゃねえか。」
「そんな訳あるかッ!!!」
弾けるように、
「あの子は―――あの子は、あの子は、総督よりも公正に、刑を執行した!! 撤回しろ、あの子は何も悪くない!」
「おいそこの新入り! あの人殺しの
鼻息が収まらず、
「………。」
「ぎゃああっ!! 痛ェっつってんだろ、もっろひんほうに打ちやァれ!」
「おい誰か! こいつの口塞いでくれ! うるさくて手元が狂ったら、掛けた後重みで手首が千切れる!」
注目を集めるように、
「心配はいらないよ。こうなることは、一年前から知っていたんだ。…今は、覚悟が決まっている。もう何も怖くない。
「………、
「逃げる事は考えていない。…
ぼた、ぼた、と、
「はい、お手伝い申し上げます。どうか、少しでもお苦しみになられませんよう…。」
悲鳴は上がったのかもしれない。けれども
「
「私がやれと言ったことを、どうして咎めよう。早くやっておしまいなさい。これ以上時間がかかっては、お前の為にならないよ。」
「おい、何やってる、新入り!」
「―――釘が、入らなかったので、穴をあけたのです。私一人では、この十字架を建てかけられません。手伝ってください。」
「うるせえ、こっちの暴れ馬で手いっぱいだ、勝手にやれ! 罪状書きつけるの忘れるなよ。」
言われると、
「な、な、なにで、しぬって?」
「………。『祭司殺しの男娼│
また
「
「ふ、ふ…。とり、あえず…。はやく、はじめてくれ。」
―――そして、早く
そんな
「く…っあ゛、あ゛ぁ…。」
両腕に力が入らず、強引に上げられた腕が、
「おん、おんじょ、は?」
「大丈夫です、まだ生きておられます。」
違う、と、
「しんそ。」
「嫌です。言えません。言いたくありません。どうか、せめて、ご自分の眼でご覧になってください!」
「…めが、」
「え?」
「なにも、みえな…い…。」
その言葉が、
「………。『獣と姦通し、大祭司を騙した、馬の息子』と、書かれています。」
「………。―――…。」
「おい、そっちの二人は終わったんだろう! こっちも手伝ってくれ、王様のお通りだよ!!!」
「さあ王様、こちらに寝そべって下さいな。何せ神殿を壊して三日で建て直すんだから、今のうちにしっかり寝とかなくちゃあ。」
ローマの裁きをも裁く神よ、私は貴方に寄り頼む。永久に彼等を辱めないでください。
貴方の義を以て彼等を助け、彼等を救いだしてください。私に耳を傾けて、彼等をお救い下さい。
私の為に逃れの岩室をくれた、彼等を救う剣と盾になってください。彼等は神の瞳、神の声だからです。
イスラエルの神よ、悪しき者の手から彼等を救い、不義なる彼等の父、残忍なるユダヤ社会の支配から、彼等を救いだしてください。
我が主の神よ、貴方は彼等の若い時からの、彼等の希望、彼等の主です。
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