第十九節 放蕩息子
一方その頃、
「…あ!」
突然、頭領が嬉しそうな声をあげた。手を離しても立っていられたのか、それとも歩けたのか。作業をしていた女や老人たちが、パッと顔を上げた。頭領の顔は、豊作の麦か葡萄を見た農家よりも、歓びに輝いていた。
「おい、その杖をくれ!」
「頭領、まだ作っている途中です。」
「構わん、早く!」
頭領が急かすので、女は不思議に思いながらも、杖を渡した。頭領は今の今まで、立つ練習をしていたとは思えない程にしっかりと立ち、しかしよろめきながら、一目散に
と、遠くに人影が見えた。誰だろう、と思っている間に、頭領の歩幅が大きくなる。あっという間に彼等の距離は近づいた。
「
「
「
だが、全てを言い終わる前に、倒れ込むようにして、頭領が
「お帰り、お帰り…! よかった、無事だったんだな。本当に良かった…!」
髭が濡れるほど泣いて、
「
「
「アニィ、頭領は怒って無いんスよ。頭領の事を考えるのなら、馬に乗って早く、頭領を横にならせてさしあげやしょ。」
「さあ、宴会だ!
「万歳、万歳! 宴会だ!」
どこかに行っていた男達もいつの間にか戻って来て、
「
頭領は答えた。
「そりゃ愚問というものだぜ。俺以外の誰もが、お前はもう戻らないと思ってたんだ。それが戻って来たんだぜ、どこにも傷を作らずに。」
「仮に宴会を開くとしたら、それは君が行った奇跡についての筈だ、
「あ? 奇跡? 俺が中風になっても歩いた事か? あ、お前は説明する前に出ちまったから―――。」
「何故恍けるんだ、あんな素晴らしい事をしたのに! 私に弟を返してくれたじゃないか、君のものなのに!」
「ふぁ?」
頭領はきょとんとして、
「んー? 俺が歩けたこと…じゃ、ないよな。お前の弟って、
何の事かな、と、頭領は引き攣った筋肉を強張らせて考え込む。恍けている訳ではなさそうだが、
「それとも何かい、君はあの素晴らしい出来事を、私に語るなと言うのかい。あんなことをするような御方がぽんぽん現れるなら、私は君の子を孕んで産めてるよ!」
「ブーッ!!!」
その場にいて、
「ま、待て待て待て
面々、
なんぢは前より後よりわれをかこみ わが上にその
かゝる知識はいとくすしくして我にすぐ また高くして及ぶことあたはず
我いづこにゆきて なんぢの
われ天にのぼるとも
我あけぼのの翼をかりて海のはてにすむとも
かしこにて
汝のみまへには
汝はわがはらわたをつくり 又わがはゝの胎にわれを
われ なんぢに感謝す われは畏るべく奇しくつくられたり なんぢの
神よ なんぢのもろもろの
我これを
この時ばかりは、
やがて
「いや、歌わせすぎたな、悪かった。」
「いいんだ。思い切り歌いたかったから。それくらいに素晴らしい事だったから。」
「ふーん。まあ、敢て聞くような野暮はしねえよ。それよか
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