第十四節 癩(らい)の谷
酷い目に遭った。ローマの百人隊に居る時、年若い兵士が精通を迎えたり、逆に年老いた兵士が夢精をしたと皆で冷やかしたりしたことはあったが、こんな恥ずかしい目に遭ったのは初めてだ! よりにもよって自分が敬愛している
そんな、一団の華を穢そうとしたと気づかれてみろ、どんな私刑を積み重ねられて死刑に処せられるか分かったもんじゃないッ!
馬を駆りに駆って、小高い丘の上で立っている
「ここからじゃ、奥方を連れていけない。あっちの風下の方で、谷の入口がある筈だから、そこへまわろう。」
「え、風下? ここよりも臭いんじゃないですか?」
「嫌なら来なくていいんだぞ。お前みたいなスケベ、奥方の前に出すなんて、お
「そ、それはもういいじゃないですか…。男なら誰でもありますよ、
すると
「んなわけないだろ! どうしてこのぼくがそんなことするんだ! おま、お前と一緒にすんな、この短小早漏変態ちんカス包茎野郎!」
フンッと喉を鳴らし、馬の脇腹を蹴る。後ろから見える耳の部分まで真赤に染まり、身売りされてきた少女のようになって、またしても凄い勢いで馬を駆った。ばかにする割に、ありゃ童貞だなあ、と思いつつ、そんな
臭いが強くなっていく。
休憩しよう、と、言おうとしたところで、
「頼もう、頼もう! 人を探して迎えに来た!
穴倉から、臭いの下になっている包帯と
「あの枯れた花を持った新顔の事かい? 一番奥にいるよ。目が見えないからね。」
谷に、罪人の呻くような声が響く。遠目に見える
「何してる、
「え…。」
「お前、まさか奥方をお迎えに行くのに、ここに入るのが嫌だとか言うんじゃないだろうな!」
谷の間に
「いや…、その、いやとかじゃ、ないんですけど、でも…。」
「聞こえないぞ、
「行きます行きます! お願いだから置いてかないで!
少し前も言った台詞を、
「
「
不規則な衣擦れの音が、少し下から聞こえる。その声は
「妃殿? 何処におられますか?」
「妃殿、妃殿。」
「はい、はい。こちらにおります。まだ不慣れなのです、急かさないでください。」
「失礼いたしました。お待ちしていますので、どうぞおいでください。」
衣擦れの音が近くなり、岩の隙間から、ひょこっと、目を包帯で覆った女が出てきた。盲人になったのか、それともそうならないように護っているのかは分からないが、取りあえず見えてはいないようで、
「あら? これは何かしら?」
何もないと思っていた空間に伸ばした手が、
「ぼくの馬です。ですがこの馬は、少々難しくぼくしか乗れません。連れの者が、お乗せします。」
「お久しぶりです、奥様。」
「あら、その声は。」
覚えていたのか。
「………。
「はい………。」
再び馬から降りて、
「さあ、急ぐぞ。お
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