第十三節 熱病
翌、岩室に光の熱が広がる頃まで寝ていた
「頭領が熱病に罹られたのよ!!!」
大急ぎで食堂であり、頭領の寝床も兼ねた場所へ行くと、いつも頭領が寝ている辺りに、人がわんさかと集まっていた。手拭いを変える者、薬をつけようとする者、泣いているだけの子供もいる。本当に巨大な『家族』が、家長である頭領の痛みを思って集っていた。
その中心には、やはり
「
人混みをかき分け、左の二の腕を擦っている
「昨日、私達に難癖をつけた若者がいた時、蝿に噛まれただろう? どうやらその蝿が、熱病を持っていたらしいんだ。一晩経って、気付いた時はこの有様だよ。…
「アバ、アバ…。」
「………。」
「あららぎ…、
「私の? アバ、私の母は、私を産んだ時に死んだと以前―――。」
「
意外なことに、
「
小さく、頭領の唇が動く。声にならない声で、愛した、否、今でも愛することしか出来ない女を想い、瀕死の淵で戦っているのだ。
やり方は分からないが、どうにかしてくれる、
仲間達の心は一つになって、嘆いている
「皆さん、心配なのは分かるけど、ここは
「何だい新入り! 冷たいこと言いやがって!」
痛い。殴られた。頭領を心配する恐怖心が暴走しそうになった時、意外なことに
「おじ様、ぼくがその女性を迎えに行きます。何処にいらっしゃるのか教えて下さい。」
「
この期に及んで、何故美醜の話が出たのか、不思議に思った人間は何人もいた。
「おじ様は、未来は視えないのでしょう? その女性を連れてくることでお
「………。でも、―――いや、分かった。その代わり、護衛と雑用として、
「はい。」
あまりにもあっさりと言うので、恐らく嘘だと思った。そんなことよりも、この取り乱している今なら、
「宜しい。では行きなさい。彼女は
告げられた場所が、
「アニィ、そんな危険そうなところなら、あっしが―――。」
「駄目だ。お前はここに居ろ。
「…あい。」
不服と言うより、
「………
「は、はい!」
「今まですまなかったとは言わない。でもこの旅でお前を蔑むこともしないし言わない。だから、一緒にお
頼む、と、
「そんなことを仰らないで下さい。貴方の為に働けることはぼくの誉れです。行きましょう、彼女は確かにそこにいるのですから。」
しかし、
馬を牽いてこい、というので、
「なんだ、気が利くじゃないか。」
「え?」
「ぼくの馬はぼくしか乗れない。お
結果的には良かった。本当はそこまで気が回って居らず、ただ癖で牽いてきただけだったのだが。冗談ではなく、あの馬に蹴られたら身体が真っ二つに折れて、皮膚が裂けて筋肉も裂ける気がする。
「おじ様の言っていた場所は
「
「ぼくを誰だと思っている? 天下のお
そう言って、
馬が持たない、と、漸く叫べたのは、
「やなぎわさんは、つかれないんですか…」
「こんな一大事に、疲れただのケツが痛いだの気にしていられないよ。それに、お父様から賜ったあの馬は、最高に乗り心地がいいんだ。」
「………頭領ではなく?」
「そう、お父様。…ぼくを拾って下さった次の日、この馬が
「これ以上でっかくなるんですか!? どっひぇー!」
「ぼくが大きくならないなら、このままさ。」
これがねえ、と、
「仕方ない。お前も疲れたようだし、今日はここで野宿にしよう。ぼくはテントを張るつもりはないから、お前が組み立ててくれ。ついでに火を炊いておいてくれ。ぼくはやらないから。」
「はい、喜んで。」
荷物の中からテキパキと道具をとりだし、火を炊いて、
そんな馬に比べれば、
頬を撫でる風が柔らかい。音色が自分の胸を啄んで、汗を吸って重たくなった衣と肌の隙間に指が滑り込む。整えられた薄い爪が、産毛の根をひっかいて、それにぴくりと動いた腰を、柔らかく抱きしめる。揮発した果実の香りがつんと鼻の奥を突き、うっそりと目を開くと、七色にきらめく貝殻の飾りで頭を覆った
「や、やなぎわ、さん?」
「ふふふ………。」
楽しそうに微笑むその姿はあまりにも艶めかしく、見ているだけで太陽を見続けたかのような眩暈がする。薄い唇の隙間から、ぽってりとした舌が覗き、仰向けになっている自分の、衣服の上を這い回った。すん、すん、と、時々鼻から呼吸している音がする。胸元の汗の匂いから、鳩尾、臍と匂いを手繰り寄せていって、鼻先が布を掻き分けていく。目的のものを見つけると、からかうように息を吹きかけた。何をしようとしているのか気づき、慌てて身を起こそうとして、激しい頭痛と明滅に思わず元に戻って頭を抑える。あまりにも怠くて、動けない。今にも憧憬の相手と同衾するかもしれないという焦りや恐れや期待で、若い
ねえ、どうしよう?
どうしようって、どうしよう。どうにでもなりそうだしどうとでもなりそうだし、どうにかなってしまいそうでどうしたらいいか分からない。
ぐるぐる考えている内に、熱いものが触れる。冷たい外気と綯い交ぜになって、ぼんやりと腫れぼったい目元が湿り気を帯びていく。
「このままでもいいよ?」
「………。」
「ん?」
「………。そのまま、くちで………。」
「は?」
「そのままお口でぼくの早漏おちんぽ舐め舐めしてくださいッ!」
「ぶっ殺すぞテメェ!!!」
ごしゃっ!
鼻から鼻血が吹き出す。たった今までの官能的で熱っぽい雰囲気は何処へやら、自分の頬は世間よりも冷たい朝焼けの風が吹き付けており、何故か目の前には人の足首が見える。その足はどうやら、自分の鼻を踏みつけているらしい。視線を上へ送っていくと、外套を羽織った人影になった。足が退けられ、顔を真っ赤にして今にも泣き出しそうな
「はれ? や、やなぎわ、はん?」
「朝っぱらから精が出るな、よしよし。一回死ね。」
………これは、もしかして、もしかしなくとも。
「………え、夢?」
「どんな夢見てたのかなんて火を見るより明らかだ。死ね。」
「え、どこから?」
「最初ッからだ、この豚野郎!」
もう一度踵落としが来そうだったので、慌てて転がる。ごり、と、股間が地面に擦れ、
「このぼくに向かって欲情しない男がいたら確かにそりゃ不能だ、それは認めてやる。でもお前のような何の得手もない男が、ぼくに奉仕を求めるだなんて烏滸がましいにも程があるぜ、このクソ童貞ッ! そんな悩み無くなるように、今すぐ処置してやる。さっさとお前の芋虫を出せ。」
「いだだだだあ! ご、ゴメンナサイ
「ワザとだったらお前の首は今頃拉げてるわ! とっとと出して追いつけ! この早漏!」
「え? ちょ、
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