本作のタイトルは、『healer ≠ ノットイコール ヒーラー』です。
直感的に、どんな意味が込められているのだろうかと思いました。
異世界に来る前、審哉(しんや)くんは、両親に病気で命のロウソクがもはや僅かしかないことを知らされずに、亡くなりました。
生きているときにキラキラと輝くことができませんでした。
だからこそ、生まれ変わったのならヒーラーになりたいと思いました。
しかし、同じヒーラーでも、薬草などを扱う治癒術師などではなく、治癒魔法師になりたかったのです。
選択を誤ったことを後悔しつつ、地味に畑に勤しみます。
段々と分かって来たことは、この土地では、人が獣化する現象が起きていました。
獣化すると夜も出歩けない程の恐ろしい場になるとのことで、主人公のシンくんは驚きます。
これが、病気らしいのです。
おしゃまなホリィさんがシンくんの手伝いをして、初めての薬草で傷を治すことができました。
ヒーラーの選択についてのわだかまりを持ったまま、シンくんは決意します。
この街を救おうと。
そして、意外なルートから真の事実を突き止めに行くのです。
私は、シンくんの青春のやりなおしだと本作を拝読させていただき、思いました。
彼の余命を伸ばす為の様々なしがらみはなく、畑仕事をしたり、薬草などの声を聴いて果てしない力の込められた薬を作ることができるのです。
シンくんにはこれからも誠実に生きて行って欲しいと思います。
そして、一緒に駆けて行きたい素敵な方ができたなら、今度こそ青空の下で笑って過ごして欲しいと願ってやみません。
又、作者様の筆致は確かなものです。
しっかりとしたファンタジー、また、スローライフものやドキドキする展開がお好きな方にお勧めです。
是非、ご一読ください。
本作は、異世界転生ものにありがちな冒険活劇ではありません。
短い生涯のほとんどをベッドの上で過ごした主人公・シンが、転生して行き着いた町で【普通の】暮らしを送ろうとするお話です。
平和に見えた町ですが、そこでは住人たちが獣の姿になってしまうという謎の奇病が蔓延していました。
薬草を育てて薬を作る能力を付与されたシンは、町の人々を助けようとしますが、徐々に恐ろしい事実が明らかになってきて……
オリジナルの薬草の設定が、緻密で素晴らしいです。よく練られていて、これだけでも読み応えがあります。
それをどう育て、どう使うのか、その過程にわくわくしました。
シンにとって、思っていたのとは違った能力でしたが、迷いを抱えながらも人々の中に居場所を見つけていく様子が丁寧に描かれており、心が温まります。
そして、ここで暮らそうと決めた彼に、町の在り方を揺るがすような決断の時が迫ります。
町にはこれまで続いてきた体制があり、決まりがあります。その中に新しく飛び込むというだけでも、結構な覚悟が必要です。
前世で思うように生きられなかったシンは、望む通りの生活を送ることができるでしょうか?
美しい文章で丁寧に織り上げられた物語です。
シンの『第二の人生』を、ぜひ体感してください。