ほしのきせき

カチ・・・カチ・・・・カチ・・・・。

「今日は、僕がお風呂入れるからね」

二人には、ずいぶんと無理をさせてしまった。

「ええーうん。」「昨日もその前もありがと・・・」

子供の、特に生まれたばかりの赤ちゃんの面倒は、人手が幾らあっても足りないし、そうでなくても二人は大変な時期なのだから。勉強、おしゃれも、そのほか様々な努力を放棄しアザラシのように部屋に転がっていたとしても。僕には、一つの文句も浮かばないのだ。

そんな事よりも、卯さん・・・・。

「早く起きないかな」

カチ・・・・カチ・・・・カチ・・・・。

「・・・・・ァツ!!」

卯さん・・・・。

良く眠ってる。どんな夢を見ているのかな。この小さな手でこれから、何を掴むのかな?

「・・・・・・・ヌン!」

卯さん・・・・。

「あ。ねぇ風葉、あれ見て」

君は、知ってる?カレーって美味しいんだよ?

「え?あ、すごい、なんか全然違うね・・・」

カチ・・・カチ・・・カチ・・・・。

「ククッ!ほんと、へーんなの」

君は、知ってる?雪ってとっても綺麗なんだよ?

「そう?私可愛いと思うけど」

君は、僕たちの勝手でこの世界に生まれてきてしまった。

「フカフカしてる」

僕は、君に少しだって悲しい思いなんてさせたくないよ。でもそれは、無理かもしれない。

「うん。卯。ここから来たのかな?」

僕のここからこんなに可愛い卯さんが?

「どうだろ?不思議だねぇ」

胸の奥がきうんと痛む。この痛みは、美味しいものを食べた時の頬の痛みに似ている。

僕の心が何か美味しいものを食べたのだ。

君は、望んだわけでもないのに生まれてきて生きなければいけなくなってしまった。

だから僕だって、約束なんてできないけれど。

カチ・・・カチ・・・・カチ・・・・。


「アアアアアアアア!!」

「さあ、卯さん」

一緒にお風呂、はいろっか。





                                   おわり

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とうもろこしの実る頃 うなぎの @unaginoryuusei

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