恋は嵐のように

カゲトモ

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「はぁ…」

 キーボードを打っていた手を止めて、ちらっと時計を見る。時刻は午後八時半を過ぎていた。

 あぁ腹減った。

 無駄なやる気を出して終業時間三十分前から計画書なんか書き始めなきゃよかった。最初はいい案が出ていたからスラスラ出来ていたのに、結局矛盾だらけで考えれば考えるだけ問題が起きてしまう。もういっそ帰ってしまって、週明けに完成させようじゃないか。今日は花の金曜日だぞ、オフィスだって明かりがついているのはたった二か所だし。

「…ふぅ」

 コーヒーでも飲んでいったん落ち着こう。こういうのは息抜きが必要なんだ。

 部屋の対角線から聞こえるキーボード音が割と大きな声で聞こえる。邪魔をしないように静かに席を立った。

 オフィスとは違い、まだ明るい廊下を歩いて給湯室へ向かう。電気ケトルの電源を入れ、細い窓から揺れる水を眺める。

「先輩の分も入れていったほうがいいかな」

 一応、先輩だし…でもそうなったら来客用のカップ使わないとだしな。それはそれで迷惑かも、声掛けてから出てくればよかった。

「でもなぁ、声掛けづらいし」

 先輩は、別に気難しいとか怖いとか、そんなんじゃない。ただ、俺が一方的にそう思ってるだけで…

「彼氏いるし」

 それも超が付くくらい束縛が激しいって噂だし。だから基本的に終業時間が来たらすぐに帰るし、休日も会社の人とは遊びに行ったりしないらしいし、残業で残っているなんて珍しいことだし。

「それにきっと、先輩の彼氏は、かっこいいに決まってるし」

 俺なんかが敵うわけ…「いやいや」

 何を大それたことを。

 ぶんぶん、と頭を振ったと同時にケトルから音が鳴った。しょうもないことしてないで、さっさと終わらせて俺も帰ろう。サッとラーメンでも食べて風呂入って、眠くなるまでネトフリ観て、明日は…明日もだらだらして過ごすだけだ。

「彼女でもいればなぁ」

 日常にメリハリが出るのかもしれないけど。

「あつッ」

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