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 薄暗いオフィスはなんだか静かになっていた。帰ったのかと思ったけど、明かりはついたままだ。

 もしかして消し忘れて帰った? あの完璧な先輩が?

「…」

 そっと自分の席とは違う明かりの元へ足を向ける。確認、確認しないと。

 何故か忍び足になりながら近づく。この距離で頭が見えないってことはやっぱり帰ったのか「え?」

 …寝てる? まじで?

 あの完璧な先輩が、机に突っ伏して動かない。そのばかりか「すー」なんて寝息が聞こえてくる。まじで?

 音を立てないようにカップを置いてのぞき込んでみる。先輩は――本当に寝ていた。

 うわ…可愛い…。

 しかもいつもの強気でタイトスカートのよく似合う仕事の出来る先輩とは、全然違う。寝顔は少女のように可愛いなんて。

 反則じゃね。

 彼氏は、いつもこんなに可愛い先輩を見ているのかな。俺が、もう少し早く生まれていたら、もっと仕事が出来る男だったら、なにか変わっていたのかな、なんて。

「先輩」

 呟くように呼んでみる。返事は…ない。

 今なら…

 背中を丸めると先輩の顔に影が掛かった。このまま、バレなきゃ――いや、ダメだ。

 こんなことして、何になる。ダメだ、人として、こんなこと。やめやめ。

 正気に戻ってカップを手にする。仕事を終わらせて早く寝よう。

「してもよかったのに」

 突然響く声に悲鳴にも似た小さな声を上げて振り返る。

 先輩が、こちらを見ていた。

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