第4話 技術進歩を語るパンダと鳩

 「やあやあ元気かい?我が動物園の一番人気!今日もいい天気でたくさんギャラリーがいそうだなあ。」鳩がふらっと飛んできて声をかけた。

 「ふわぁ~~。うん?もう朝かあ。どうも、おはよ~。ふわぁ~。」鳩に声を掛けられたパンダは寝ぼけた様子で答えた。

 「それにしても故郷に帰れるはずだったのに、延期になっちゃうとは。人気があるのも善し悪しってもんだな。」本場中国への返還が延期になったパンダに同情し、鳩は言った。

 「え~。でも全然残念じゃないよ。向こうじゃ僕は珍しくないから、扱いも結構雑だしね~。こんなにチヤホヤされるのはここだけだから、悪い気しないし。むしろ長くいたいくらい。まあ、言ってみれば僕はご当地アイドルって立場?」パンダはケロッと言ってのけた。

 「ここじゃあ、死角にいても様子を映し出すテレビモニターがオリの前に付いてるしな。こんなの設置されてるの、ここの園じゃ君だけだからなあ。まさに我が園のジャニタレだ。」鳩はパンダを更にもち上げた。それに対してパンダは「でもプライバシーないんだよな~。四六時中人目にさらされるでしょー。人間の世界にある週刊誌の張り付きの方がまだ甘いんじゃないかって思っちゃうよ。」と、人気者ならではの悩みもあるようだった。

 「そうだよなあ。最近じゃモニターも高性能になってるし、益々だよなあ。テレビも4Kとか8Kとか、どんどん鮮明になってるらしいぞ。くっきり見えちゃうんだって。」鳩はパンダの悩みに同調して言った。

 「へ~。そうなんだ~。じゃあさ、鳩くんも映してもらってさ、くっきり見せちゃえば?本物の鳥肌ってもんを見せつけてやるのも悪くないよね~。」パンダの一言に鳩はすかさず、「いやいや、羽の中を見通せるわけじゃないから。羽をめくらない限り、羽いくら映しても羽だろうな。パンダ君だってその白黒の毛の中は、じつは全身肌色なんですってことが映し出されたら、大変だろ?」と返した。

 「そりゃあー大変だ~。僕の人気はこの白黒にあるんだからね。なるほど、透けると困るな。技術革新もここまでで止まって欲しいもんだ。じゃないと、僕にとっては営業妨害になっちゃうよ。それにしても、鳩くん。よく僕の秘密を知ってたねえ。モニターも記者も危険だけど、鳩くんも侮れないな~。」パンダは感心と多少の警戒心をもって言った。

「でもまあ確かに、技術が発達すると、人間は便利でいいだろうけど、僕たちにとっちゃあ環境が変わることもあるよなあ。鳩史においてもそれは経験済みだしな。」鳩は過去を振り返るように空を眺めて言った。

 「へ~。鳩くん、何があったの?」パンダの問いに鳩が答えた。「いやさあ、今じゃあICTって言うの?誰かに何か伝えたいときなんて、メールとかSNSとかさ。もう一瞬な訳よ。昔だったら、伝言は僕らの祖先が担ってたんだぜ。技術の向上で、僕らの役割も減らされて、存在価値を探すのに一苦労だよ。こっちにとっちゃ、SNSじゃなくて、SOSの気分だよ。」

「伝書鳩ってことでしょ?でもそれっていつの時代??」パンダは聞いていた。

 「まあ、僕の祖先の祖先の祖先の祖先の3乗くらい前かな。なにせ紀元前の話だからな。でもよお、人間にだって、車やオートバイにだって勝ってきた訳よ。そりゃあ、重さや量には限界あるけどさあ。でもある一定の条件だったら、俺たちの方が断然速いんだから。ストロングポイントがあるって分かれば、こっちも鍛えがいがあるってもんでしょ。だからご先祖様は筋トレだって苦じゃなかったみたいだけど。おかげで大活躍!人間からも重宝されて、きっと『生きてる』って実感いっぱいだったんだろうなあ。でもよお、ICTはだめだ。ありゃあ勝てねえ。一瞬なんだもんよ。こっちがどんなに鍛えて、速さを極めようと思ったって。テレポートできない限り勝てないんだもんよ。イヤんなっちゃうよな。」鳩は情報通信技術の発展憎しという表情を隠すことなく語った。

 「でもさあ、鳩くんは大丈夫だよ。だってさ~、平和の象徴じゃない。」パンダは励ました。

 「まあよお、今となっちゃ俺らの生きる道は、何でか分からない『平和の象徴』っていう看板と鳩サブレってことだと自覚してるけどよ。」やさぐれた感じになった鳩が言った。

 「そんなことないよ~。平和の象徴だって、聖書からの由来って、ちゃんと理由あるじゃんよ~。すごいよ!鳩くんの先祖が世界を救ったわけでしょ。尊敬しちゃうな~。そんな昔から活躍してるなんてさ、僕たち中国四千年の歴史にも勝るとも劣らないよ。」パンダは何とか鳩を元気づけようと話しかけた。

「おいおい、ちょっと照れてきたぜ。まあ、じゃあ平和の使徒としてぼちぼち頑張っかな。」少し元気を取り戻して表情の明るくなった鳩が答えた。

 「それにさ~。きっといつか伝書鳩としての仕事もあるんじゃないかな~。」パンダの一言に鳩は「なんで??」と、不思議そうに尋ねた。

 「だってさ~。やっぱり直接書いた文字って嬉しいもん。味があるっていうかさ~。その人が分かるって感じするじゃん。僕も子どもからファンレターもらうけど、一人一人の字に個性があって見てて楽しいしさ。便利さだけじゃ物足りないって感じる人いると思うよ~。」とパンダは思ってることを鳩に言った。

 鳩は目を潤ませながら言った。「いいこといってくれるじゃんよ~。よし!いつその時が来ても良いように、俺も先祖様を見習って筋トレに励むかな!サンキューな、パンダ君よ。それに、目的地までしっかり迷わず行けるように地図アプリ最新のにしとかないとな!」

 「ICT嫌いなんじゃなかったっけ・・・。」パンダが呟いた頃には、もう鳩は力強く大空に羽ばたいていた。

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