なぜ毛を剃らなきゃいけないのか? ムダ毛って何?
人はムダ毛を処理する必要があるらしい。
そのことに気づいたのは中学生の頃だった。人の腕や足をまじまじ見たことなんてなかったし、生えていようがいまいがどうでも良かったから気にならなかったが、毛を剃るのがマナーらしいと知ってからは恥ずかしくなり、見よう見まねで剃刀を使い始めた。
しかし最近思う。人間の毛並みって綺麗じゃないか? と。
毛並みは人類が遠い昔、獣であったことを感じられる名残の一つだ。眺めていると生え方が面白く、生きた動植物を観察しているような気分になれる。動物の毛並みや鳥の羽のようだし、人体の神秘に触れられるのだ。
人は自分の意志で生きているが、細胞には細胞、内臓には内臓の意志があるのだろう。その不思議を感じることもできる。人間の姿形や内臓、細胞のシステムは私が考えたわけではないが、体は生まれたときからそのようにできている。そしてこの目や足や骨や内臓、毛の特徴は、他の動物たちとの共通点も多くある。毛を眺めることで、今自分一人でここにいながらも、数多の生き物たちや自然との繋がり、生命40億年の歴史を感じることができるのだ。
それを「お肌、お肌」と肌だけを神のように崇め、毛は汚らしいと取り去ってしまうとはどういうことか。花の受粉には虫が必要であるように、肌を守るには毛が必要だったのではないのか。動物の肌を守り続けてきた毛の名残に対してなんという仕打ちであろう。
考えてみれば日本人は多くの生き物が苦手である。虫、爬虫類、両生類……。自然や動物から遠ざかり、自身に残る動物らしささえ排除したいようにも見える。
少し話が逸れるが、ナメクジはなぜ嫌われているのだろう。ガーデニングをする人、野菜を育てる人にとっては「育てている植物を食べてしまう存在」だからだろうが、「ヌメヌメしていて気持ち悪い」という意見も子どもの頃に聞いた気がする。
その時は「そっかー、ヌメヌメしているからかー」と納得していたが、今になって考えてみるとおかしい。そもそも人間はヌメヌメから生まれてくるではないか。理屈が通らない。
……カサカサした虫が嫌われているところを見ると、ヌメヌメ云々は関係ないか。人はカサカサしたものはカサカサだから嫌い、ヌメヌメしたものはヌメヌメだから嫌うのだ。
とにかく生物の身体的特徴に対して許容力がなさすぎる気がする。だから「ムダ毛=不潔」なのだ。毛が生えていたって肌は普通に洗えるのに。
武器を作り戦や防衛をすることは危険であっても「不潔」とは呼ばないし、剣や銃などの武器や戦闘シーンは映画やドラマやゲームに登場するところを見ると、人類から愛され許容されている。武器や環境破壊が地球上に存在するのはまぁ良くて、ムダ毛は見るのも許せないというのは一体何だろう。
ムダ毛より他になくすべきものはたくさんあるのではないだろうか。いじめとか差別とか格差とか貧困とか……。世界は私の好きなものやささやかな幸せを排除することにばかり時間をかけ、世界から少しずつなくした方がいいものは野放しにする傾向にあるようだ。
……私もバトルゲームやランキングが好きなので矛盾しているけれど。
たぶん結局、ムダ毛を剃るのも「この人はルールに従うか?」ということを確認しあう儀式の一つなのだろう。みんなの間で「こうするもの」と決まったら、そこからはみ出すものは悪なのだ。お歯黒であれ上下関係であれ、なぜだか分からないがそういうものだ。
逆にみんなが毛を生やし始めたら、生やさない人が悪になるのだろう。みんなが戦争をしているときに戦争に反対する人は非国民呼ばわりされるように。
そんな大きな「何か」にあえて逆らうのもエネルギーのいることである。なんだか息苦しいと思いつつも、外れれば余計に息苦しいのも分かっているので、無駄に逆らわない方がいい。
それにしても面倒なことだ。人間関係の八割はしがらみで出来上がっているんじゃないか。リアルで人と関わりたくなくなる。元々対人恐怖症なので、だいぶ孤立しているが……。
そんなわけで、今日も新たな道を切り開こうなどという結論には達しなかった。
やっぱりうだつが上がらない。
*
関連エッセイ「虫好きな人がおかしい? 虫嫌いな世の中がおかしい?」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896019060/episodes/1177354054896062814
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