虫好きな人がおかしい? 虫嫌いな世の中がおかしい?

 ある日いつものように虫を眺めていたら、ある人から「変だと思われるからやめた方がいいよ」と言われた。

 大ショックだ。未だに引きずっている。


 好きなもの全否定ではないか。

 いや、簡単に何でもさらけ出す私がいけない。趣味を聞かれたわけでもないし、相手は私の話に興味がなかったかもしれないのに、わざわざ開けっぴろげにするのがいけないのだ。相手の趣味や考え方、人格、ある程度つかめてくるまでは心の内を気軽に晒したりしちゃいけない。友達のいない私には、その程度のスキルもなかった。


 ただネットなら別だ。好きなことで発信を固める。それぞれ気の合う人を見つけて交流し、どうしても合わない部分が出てきたと思ったら受け流すなり去るなりすればいい。



 ところで「人に変だと思われるから虫を愛でない方がいい」って一体どういいう理屈だろう。


 どうしても苦手というのは仕方がない。DNAに刻み込まれているのかもしれないし、私にもどうしても苦手なことはある。

 けれど変とか変でないとかはどういう基準で決まるのだろう。変人といえば全員変人にも見えるし、そうと捉えなければただいろんな人がいるだけだ。



 虫が好きな人も、虫が苦手な人が多いことを前提で、配慮して発信しておられる様子が見られる。

 配慮は素晴らしいことだが、そういうのを見るとそこまで嫌われている虫って何なんだろうとか、この人は虫が好きなことで何か嫌な目にでも遭ったのだろうかと思う。



 虫に対して人は堂々と「見た目が気持ち悪い」と言う。

 殺虫剤もスーパーやホームセンターで売られている。対した害はなかろうと、「不快である」というだけの理由で殺すことが許される生き物だ。


 しかし犬や猫に同じ対応をすればどうだろう。

 犬や猫の見た目が気持ち悪い。不快である。スプレーシューッ。


 そんなことをすれば動物虐待である。可愛い動物たちが「気持ち悪い」と言われているのも見たことがないし、動物のことであればどちらかというと、苦手な人が好きな人に配慮しているのではないだろうか。


 動物が苦手な人もたぶんいるだろうが、犬や猫の写真を出す前に「今から猫の写真を出します。猫が気持ち悪いと思う方、苦手な方はご注意ください」などと配慮の一文を出している人は見たことがない。

 動物嫌いの人への配慮であっても「気持ち悪い……」なんて言葉を付けたりしたら動物が可哀想だ。


 しかし虫や小さな生き物は、その生き物が好きな人が配慮するのがわりと普通だ。「閲覧注意」という言葉を付けるのはマナーの一種なのではないだろうか。



 人や動物のことを「見た目が気持ち悪い」とか「いるだけで不快」とか言えば人格が疑われる。

 配慮であっても「うちには◯◯人がいるので◯◯人が苦手な方はご注意ください」なんて差別的な発言をしたら人格が疑われる。


 でも虫の場合真逆で、虫が好きだと言ったり、虫好きが虫嫌いに配慮しなかったりする方が人格が疑われる気がする。


 同じ命なのにこの扱いの差は何なのか?

 異常なのは虫好きか? 虫嫌いか?



 虫嫌いといえば、ジャポニカ学習帳の表紙に載っていた昆虫の写真、あれが気持ち悪いと親や教師からクレームが入り、表紙の昆虫写真が廃止されたそうだ。


「苦手」はしょうがないし、苦手な人からすれば理屈じゃないとは思うけれど、それなら人種差別も動物虐待もいじめも犯罪も理屈じゃなくやってしまうのだからしょうがないということで終わりじゃないのだろうか。



 グローバル社会とか多様性とかを教えるべき大人が「それはそれ、これはこれ!」と線引きしていいのだろうか……。


「変」とは……「普通」とは……「平等」とは……。

 世の中分からないことだらけだ。


 いつか引かれたラインからはみ出すのは、虫でも変人でもなく、自分自身かもしれない。





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