【2nd BATTLE】

タイムアップギリギリでコンティニューを決意した彼女が、夕暮れの公園で名前を尋ねた

追うゲームバカ vs 逃げるゲームバカ①


 真っ暗闇の空間に、カーテンから漏れた朝の光が差し込んでいる。

 どんよりこもった部屋の空気から、にごった酸素を肺の中へと取り込む。

 チカチカと、眩い光を放つテレビ画面に死んだような目を向けながら、私はただカチャカチャと、ロボットのようにコントローラーを操作し続けていた。


 ――ピコッ……、ピコピコッ…………、タンタラリーン――


 「……ふぅっ」


 画面に映し出された『GAME CLEAR』の文字を見つめながら、ポイッとコントローラーを放った私の口から、小さく息が漏れる。



 ――オイオイ……、このシューティングゲームクリアするの、何百回目だよ、キミ……いつまで『ハイスコア』を更新し続けるつもりなの?――

 「……うるさいな、同じゲームをずっと楽しんでるんだから、経済的でいいでしょっ――」


 ――……いやいや、素直に尊敬するよ。キミみたいな『ゲームバカ』、この世に二人と居ないんじゃないか?――

 「……全然嬉しくないっ」


 ――……キミらしいな。誉められてるんだから、たまには素直に喜んでみたらどう?――

 「……全然誉めてないじゃん、『バカにしてる』じゃんっ、……ゲームがうまいって、『友達がいなくて暇なんだね』って言われてるのと一緒だからね」


 ――……ぷっ――

 「――ッ! ……なんで、笑うの……ッ!!」


 ――……いや、ごめんごめん、……あんまり『ひねくれてる』もんだから……、そりゃあ、友達なんかできないよなぁって――

 「――ムカッ……、大体、キミが『バカにする連中なんて無視しておけばいい』なんて言うから――」



 ――トンッ、トンッ、トンッ――


 「……あっ…………」

 ――……お母さん、起きたみたいだね――


 「……うん、寝てることにしてないと、また怒られる――」


 ――ピッ、とテレビ画面を消した私は、のそのそとベッドに移動し、もぞもぞと布団をかむる。しばらくしてガチャッ……、と部屋の扉が開かれた音がしたと思うと、すぐにバタンと閉じられる。そしてまた、トンッ、トンッ、トンッ……と階段を降りる音が聞こえ、布団の中で丸く縮こまった私は、その音が聞こえなくなるのを、耐え忍ぶように待った。


 「……ふぅっ」


 気づかない内に呼吸を止めていた私の口から、空気が漏れ出る。


 ――……今日は、もう、寝た方がいいよ――

 「……うん、そうする――」


 パチッと目を閉じると、悶々と、色んな景色がグルグル頭の中に流れ込んでくる。最近寝る前によく思い出すのは、もっぱらあのゲームセンターで出会った『変な人』のことばかり――


 ――『あのなぁ、言いたいことがあるんなら……、ハッキリ言えよ』――

 ――『なんでもいいよ、お前の言葉で、どう思ったか……、言ってみろ』――

 ――『うちの会社、はいれよ。……そんで、俺と一緒に……、ゲーム作り、しねぇか?』――


 ――ドクン、と心臓が動いた音が聴こえた。

 真っ暗闇の布団の中で、私は思わずパチッとその目を開ける。


 ――……なに、あの人のこと、好きになっちゃったの?――

 「――バカ……」


 真っ暗闇の布団の中で、心底辟易したトーンで、私は一人、言葉をこぼす。


 ――ハハッ、冗談だよ、それより……、ゲーム作り、ホントは興味あるんでしょ?――

 「…………別に」


 ――僕の前で、強がらなくていいよ……、やっと、キミのことを認めてくれる人に出会えたんじゃないか……、これをきっかけに――

 「――いいの!」


 『見たくない』と目を閉じるように、

 『聞きたくない』と耳を塞ぐように、

 布団の中に閉じこもっている私の口から、つんざくような大声が漏れる。



 「……私には、無理………、だって、キミのこと――」



 真っ暗闇の空間に、カーテンから漏れた朝の光が差し込んでいる。

 今日という日から逃げるみたいに、私は夢の世界へと急ぎ足で駆け込んだ。



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