第194話

 幸せな時が経った……。

 青龍の事も忘れ、愛を与えられ与える幸せな日々が過ぎた頃、今上帝は予期せぬ報告を受けて幸福の絶頂に上られた。


 藤壺の女御様のご懐妊である。

 まだ嘴が黄色い雛で、相変わらず痩躯な雛碧雅が、なんと女体でなくば絶対に有り得ない、御子様を授かる事ができたのである。

 これで今上帝は、碧雅以外の女御ものに子授けの行為をしなくてもよくなった。今上帝には二重の喜びである。


 ……その夜子を授かった雛は……大事を取らねば……とか言われ、御寝所に召す事がかなわず、ずっと抱える様に休んでいた御帳台に、久々の一人寝の今上帝の元に、この世のものとは思えない程の美しい女人が現れた。


「我が婿様……」


 それは美しい女人は今上帝をそう呼び、今上帝はそのお方こそかのお妃様で、我が妻のお母君様であられると察して、頭を垂れて身を屈めた。


「お義母君様……お初にお目に掛かりますを、お許しください」


「何を申されます?我が身は彼方に居る身、致し方ございませぬ。しかしながら、を気に召して頂き、ホッと致しました。の次兄は長兄を愛しましてね?……さしもの私も読めませず、思いを果たさすにいろいろと難儀を致しました。あの当時気の利いた者がおりまして、それは役立ちまして……お陰で私が思うた以上の物を残せました。ゆえにそなた様が如何なる嗜好か解らぬゆえ、ちょっと難儀をおかけしましたな?まっ、わたくし特有の、試しとさせて頂きましたも真実にございます」


「試し?」


「鸞は愛を一番と思う一族にて、を糧と致し力と致します。そなた様は我が夫、そしてその御子の子孫でありまするが、果たしてご両人の様な愛情の持ち主か否か、試しとさせて頂いたのです。鸞の好物の愛の中でも、恋愛程強力なる物はございませぬゆえ……」


 そう一通りお話しになられると、オホホホ……と高々にお笑いになられた。

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