第191話

「私はを、中宮と致しとうございます……そしてかの天子同様、のみに子を成したいと存じております」


 真剣に言う今上帝に、金鱗と銀鱗は顔を見合わせた。


「……それは、今の内裏では難しかろう?」


「それでもそうしとうございます……ならぬならば……」


 今上帝はしばらく言葉を切った、そして徐に


「私は全てを捨て、後院に赴くつもりにございます」


 そう言い放った。

 その言葉に、金鱗と銀鱗が驚愕する。


「ちょ……ちょっと待て今上帝。気持ちは重々解ったが、決して早まるでないぞ」


 慌てたのが金鱗だ。

 瑞獣のお妃が、我が子の碧雅を送り込んだのだ。それも様に……否、のだ。

 それには必ず意味がある。それもにしたのである以上、であるべきなのだ。でなくてはならない。それを碧雅の所為で退くなど、本末転倒処の話しではなくなる。

 それよりも厄介なのが青龍だ。

 飽く事無く力を欲する青龍が、許すはずがない。その力を奪おうとするものへは、容赦がない存在だ。

 碧雅が理由で、今上帝がそんな事にでもなり兼ねねば、青龍は碧雅を放ってはおかない。


「今上帝よ。御身をよくよく考え、その様な考えは棄てられよ。それが最愛なるものを、生涯その手に置く術であると心得られよ……」


 金鱗の真剣な表情に、今上帝は我が身の奥底の存在に思考を当てた。


「中宮など、碧雅が欲するとは思えぬ」


 金鱗は尚も真顔で言って微笑んだ。それは意味深い笑みだ。


「何だ中宮とな?そんな物私は願い下げである」


 すると碧雅が、物凄ーく嫌悪を浮かべて言った。


「そなた中宮中宮と……未だに女々しいヤツである」


 碧雅は蒸し返されたようで、かなりのご立腹となったので、今上帝が顔色を蒼くする。


「やっ?中宮と申しても、かの中宮ではないぞ」


「私にとっては中宮はアヤツである。それを私に当てがおうとは……そなたそんなに中宮が良いのか?」

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