第190話

「まっ、碧雅がこれ程のぼせておるのだ、良かったではないか?」


「……しかしながら、私は今だに女体とはならぬのだ、如何致したらよいであろう?」


「女体?」


 銀鱗が、怪訝気に聞き返した。


「あー……女体ではないと申しましても……胸の膨らみが無い、という事であとは……」


「支障は無いのか?」


「はい……」


「ならば、事は致せるわけか?」


「……はい……」


 今上帝は神妙に答える。

 支障無くわけではあるが、果たして支障が無いのかは疑わしい。

 つまり子が成せるか否かである。これは今上帝の立場では、大きな問題といってもいいから気掛かりだ。

 碧雅を愛すれば愛する程に、最愛なる碧雅との自分の子に、天下を与えたくなるのが人情という物だ。

 まだまだ子を得ずともよい年ではあるが、得られるか否かは知りたい。

 できうるならば、他所に与える行為もしたくない。

 だが碧雅に子がなせねば、この国の天子として、務めねばならない事が在るが現実であり、その命を受けているが真実だ。


「何だ?かなり深刻だな?」


「あ?いえ……」


 今上帝が言い淀むと


「私がまこと、女体か否かが心配なのだ」


 と碧雅が言った。


「事が成せるのであろう?何が問題だ?」


「まぁ?まだお若いお二人ゆえ、さほどに深刻とならずとも……」


 男である金鱗は、どうやらの方に疎いらしい。銀鱗が直ぐ様気づいて言った。

 それは当然で、大河の精王妃ともならば、重圧を厭という程知っている。

 そして得られなければ、他のものと分け合う屈辱を、堪えねばならぬ苦痛も知っているから、だから今上帝の性格を知っているから直ぐ様気づいた事だ。

 まっ、我が夫金鱗には、理解し難い事であろうが……。


「しかしながら……の処が判然と致すと、宜しゅうございますわね……」


「……はい、できうるならば……」


 今上帝は、金鱗と銀鱗を正視して言った。

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