第189話
中秋の名月を肴に、今上帝の禁庭で酒宴である。
勿論の事主催は、金鱗魚精王である。
昼間なら
禁庭に在る正殿の釣殿で、今上帝は銀鱗に酒を注ぎ入れてもらい、それは見事な水面の舞いと、それによって舞い上がる水泡の煌めきに酔いしれた。今や今上帝にとって、亡き母を模している銀鱗は、母の様な存在と化している。種族を超えた存在であり、銀鱗もかの菩薩の様なお方の忘れ形見の今上帝は、我が子の様な存在となっている。
それで無くても、魚精の王妃の銀鱗は気は強いが、愛情深く情け深い魚精全ての母である、その懐の深さが、今上帝を心安らかに包み込んでいる。
「とうとう思いを遂げたか?」
金鱗が朱明の処の孤銀からの差し入れの、孤族秘伝の酒を今上帝に進めながら言った。
「おうよ、やっとこさである」
今上帝は、はにかみながら答えた。
「碧雅はかなり嬉しかったのであろう、直ぐに報告に参った……」
「えっまさか?」
「……そのまさか、でございますわ……碧雅は羞恥心という物がございません……」
銀鱗は五襲が覗く袖口で、口を覆って笑った。
「……何を申されますか?銀鱗様。アレは大層な苦痛でございました。今上帝への思いが無くばこなせませぬ」
碧雅が真顔を作って惚気るから、金鱗と銀鱗は今上帝の顔を見て唖然とする。
「……で?今は如何であるか寵妃殿。今だに苦痛であるのか?」
金鱗が意味深い笑みを浮かべて聞くと、今上帝は顔を赤くして碧雅に視線を送る。
「今は苦痛どころか……」
真っ赤になった今上帝が、大慌てで碧雅の口を手で押さえる。
「これよりはお許しくださいませ、聞くに恥じ入るばかりにございます」
「何を申すか?金鱗より、そなたの方が良い事をだなぁ……」
恥じらいを持たない碧雅に、今上帝は口を押さえて真っ赤になった。
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