第184話

 雛は腰を引こうとするから、もはや収まる状態では無い今上帝は、無理矢理腰を持ち上げた。


「ウッ、そなた私を殺す気であるか?」


 大仰な物言いの雛に、今上帝は呆れるやら腹立たしいやら、芯を思いっきり差し入れると、雛は苦痛の余り今上帝の腕に爪を立てた。


「死ぬ事は致さぬゆえ、しばし辛抱致せ」


「そ、そなた……然程に無慈悲なる者であったとは……」


 苦痛に喘ぐ雛がその後、罵詈雑言を宣った様だが、無我夢中の今上帝の耳には届いていない。

 恋人同士の甘い時……などとは程遠い時が過ぎ去り、今上帝の寝所の御帳台に静寂が訪れた。

 荒い息と汗をお浮かべの今上帝は、隣でシクシクと泣いている雛を見つめられた。


「雛よ……然程に泣かれたら、私は真に童女を汚した気分となる……」


「ウッ……ウッ……息も……息もできなんだのだぞ……」


「……ゆえに力を抜いて、息を致せと申したではないか?」


「あれ程の物を堪えるに、ノホホンと息などしておれるはずはなかろう」


 雛は身を起こすと、今上帝を責めやる。


「そなたは大仰なのだ……」


「そなたは思いもかけぬ程の、非道なる者である。無慈悲なヤツよ。私はと申したではないか?」


 雛は必死に怒っているが、そんな言葉を聞いたところで……である。


「……ああ許せ、もう致さぬ」


 今上帝は、面倒くさくおなりで仰った。

 まぁ、事が済む迄あっちもこっちも引っ掻かれるは、爪を立てられるは、躰にミミズ腫れ状態である。

 貴い身分の今上帝の肌に、これ程の傷を残した者はいないし、他国ならば死罪である。


「えっ?もう致さぬのか?」


 雛が涙を引っ込めて、今上帝を見つめて言った。

 その様子が愛らしい。


「そなたが厭がるものを、無理強いはせぬ……」


 今上帝もこれ程にあらがわれてしまっては、一体となり得た喜びも無ければ、自分の物として手に入れた幸福感もありはしない。

 ただ納まらない物を力ずくで納めた感じで、何も知らぬ童女を汚した感じで、後味が悪いだけになってしまわれている。

 ……やはり早まった、と後悔しかおありになられない。

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