第185話

「べ、別に……そなたとは厭ではない」


 雛は相も変わらずに、潤んだ瞳を向けて言う。


「どちらかといえば好きである……ただ、これ程に苦痛を伴うとは……聞いておったが想像以上のものであったのだ……」


 恥じらう様に伏せ目になると、長い睫毛が濡れている。その様子に今上帝は、愛おしくて堪らなくなり、雛を引き寄せて抱かれた。


「許せ、然程に苦痛であったか?」


 ウンウンと大きく胸元で頷いて、ズズッ……とはなすする音がする。


「……ならば、やめよう……そなたの望まぬ事は致さぬ……」


 嘘も方便ではないが、今上帝は然程焦っているわけではないし、碧雅が落ち着いてからの事としても充分だ。

 相思相愛ならば求めたくなるし求めてしまう。睦み合う事の本当を知った上で、碧雅が受け入れてくれればそれでいい。


「苦痛であるが、と言われるは心外である」


 雛が言うから今上帝は


 ……ならば如何致せというのか……


 とまたまた苦笑される。

 この様な事となるは、高貴な身分に産まれた者には稀有なる事だ。

 特に今上帝は身分の高い者達から、見目麗しい姫を差し出される。

 姫達は今上帝と、そういう関係を望んで差し出されるから、決して雛の様な態度を取った事は無い。

 確かに腰を引き身を引こうとする行動はあるものの、決して争わず身の誉れと苦痛で渋面を作っていたとしても、今上帝を最後迄迎え入れるのが普通だ。そうでなくては后妃とはなれない事を、彼女達は知っている。


「そなたに、は心地良い……しかるに……」


「ならばを、やめと致そう」


 どうやら行為自体には満足を与えられたらしい、と察して今上帝は、最後の最後で苦痛を与える行為を避ければよいのかと理解された。


「おっ、ならば……」


 雛はどうしても、奉仕の体制を作りたがる。


 ……もしかしたら、これも懲りさす術を見つけられるか?

 今上帝はそうお思いだが、潤んだ瞳を見入るとやはり、その御気は失くされる。


「……ならば、そなたの良い処まで今一度致してみるか?」


 再び雛を横たえて、組み敷いていく……

 すると雛は、先程とは違う甘い声を上げた。

 こうなってしまえば、途中でやめる事など、おできになられるはずもない。

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