第171話

「確かに目を見張る程に美しいであるが、デレデレとして嬉しそうであった……」


「……何もデレデレとは致しておらぬ……ただお母君様のいろいろをお話し頂き……」


「……とか申して……ムフフ……助平め!」


 碧雅は今上帝が手にする瓶子を取り上げ様とするが、もはや躰が揺れている。


「ああ……解った……」


「はっ?何が解った!だ?」


「あーいや……」


「全くそなたは阿呆者なのだ。大人の女体にこだわるゆえに、長ーい間長い

 ーい間思い通した中宮に痛い目に合うて、ザマァなのだ」


「ざ、ざまぁ?」


「ザマァなのだ。ベロベロベーなのだ」


 碧雅は手にした瓶子を落とすと、今上帝にもたれかかって天を仰ぎ見る。

 すると天の眉月と碧雅の眉が、今上帝には重なって見えた。


「そなたは私がになるまで、生きておらぬのだなぁ……実に口惜しい。私は絶対、あの者達よりイケておるのに……」


 今上帝は、天を仰ぎ見る碧雅を抱きしめた。


「そなたは私が望まねば、女体とはなれぬ身ぞ……」


「おお!そうであった。私はそなたが望まねば、雌雄も付かぬ雛のままであった……」


「……ならば女となれ……」


「女体にか?」


 碧雅は酒の匂いをプンプンとさせて、今上帝の面前で笑った。


「女となって私の物となれ……」


「……………」


 碧雅は鼻と頬を真っ赤に染めて、潤みきった瞳を今上帝に覗かせる。


「私の寵妃となれ……」


「おっ?いいな。お母君様の様に妃となろう……そしてそなたの寵愛を一身に受けよう……」


 碧雅はそう言うと、誘う様に今上帝を見つめて口付けた。

 互いが互いを求め合う様に唇を重ね、そのまま躰も重ねた。

 静寂の中満天の星の下、微かな衣擦れの音が響き渡る。

 微かな衣擦れの音と共に、今上帝は微かな寝息も耳にした。


「雛?雛よ……」


 今上帝は真っ赤な顔容を、赤い眉月に照らされて、それは心地良さげに眠る碧雅を注視した。



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