第170話
「お、おとな?」
赤ら顔の碧雅が金鱗を認めると、金鱗はニヤリと笑った。
「銀鱗……そろそろ御開きじゃ……そなたがそうしておると、碧雅が悪酔いをする……」
金鱗が碧雅を見て言うと、今上帝と大池の精達の踊りを堪能していた銀鱗は、クスリと口元を押さえて微笑んだ。
「今上帝様、今宵は実に嬉しゅうございました。幼き頃よりお顔を拝しておりました、かのお方様の御子様と、こうして御目通り叶いまして……」
そう言うと、金鱗の側に寄って佇んだ。
「我らに縛りは無いからな、逢いたいならば何時でも此処に参れ……俺は陰陽師の屋敷に居る事も多いが、銀鱗は此処の屋敷に居るからな……女人が近親者にしか姿を見せぬなど、人間の貴族しかしない事よ」
「いつでも御相手を仕りますわ。亡き母御様の話しを致しましょう……」
銀鱗が今上帝に向かって言うと、パッと神々しく二人は輝きを放って、そのまま姿を消してしまった。
すると今まで賑やかに楽の音に合わせて、鮎や岩魚の舞い踊りも一瞬にして消えて、煌々と赤く輝く眉月と満天の星が輝き、深夜の静けさが広い禁庭の大池に残された。
……静かだ……ただ静かだ……
今上帝はまだ手酌酒の碧雅の側に寄って、傍らに腰を落としてその派手な瓶子を手にした。
「雛よ……飲み過ぎであるぞ」
すると雛瑞獣碧雅は、珍しく目を据えて今上帝を見た。
「はん。金鱗の妻の銀鱗王妃は、あれに劣らずの女体の持ち主である」
どうやら、かなりの酩酊状態と化している様だ。
何度も何度も、それを繰り返す。
何せ今上帝に、こんな姿を見せる者など存在しないし、存在したとしても、側近中の側近伊織が今上帝のお側近くに寄らせぬから、今上帝はお初の遭遇という状態だ。
ただ目を物凄ーく据えて、今上帝に絡みかけてくるが、どう接してよいやら解らない。
だが、その姿がやけに妖艶で可愛い。
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