第166話

「陰陽師の命と引き換えに、今上帝そなたは誕生致した。だが此処でも取り違えるなよ、かの陰陽師はに、命を賭けたのでは無い。は我が身を高く買い信頼してくれた、当時の今上帝……つまりの為にしたのだ。さきにも申したが、青龍は抱けしそなたを害する者には、容赦を致さぬ、今上帝が再びの心得違いを犯した場合、救う術がないからな。陰陽師は守られても今上帝は守れぬ。ゆえには我が身を呈して今上帝を守り、そして一族を守ったのだ。現に陰陽師の一族は、高い位には無いが陰陽師として陰陽寮に在る。だがあの時我が身だけが守られ、当時の今上帝が青龍にやられておらば、あの一族は陰陽寮に在る事はなかったであろう。法皇は自分が命じたが為に犠牲となった陰陽師に、やましさしか残らぬ……ゆえに遺された者には庇護を与える」


「その陰陽師とは?」


「正二位の安倍の者よ……我が知己の朱によってあの一族は守られ、代々嫡子には魔物達から身を守る証しが刻印されておる」


「アヤツがそうなのか?ゆえにお母君様は、の元に行けと言われたのか……」


 碧雅が納得顔を作った。


「朱が唯一信頼致した人間よ。そしてには、驚く程の能力が備わっており、かのお妃様のちょうを得ていた。朱はお気に入りであったが、とにかく一番に信頼されしはお妃様だ。お妃様の難題をこなし、期待以上のものを成果としたそうだ」


「……それ程の者の子孫とは……」


 碧雅はそんな者の子孫とは、思えない朱明を思った。

 第一あのお母君様を満足させるとは、かの正二位とはかなりの者だ。

 一頻り泣いた今上帝は、再び優しい眼差しの銀鱗の差し出す盃を手にした。


わたくしはね、そなた様の母御様を存じておりますの。禁中には我らが作りし、自然の池がございましてね……かのお方はほんに美しく、そしてお優しく……私は気性が激しいので、を真似るは致せませぬが、見た目は模範とさせて頂きましたのよ」

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