第152話

「そなたが、青龍を抱けし者であるとは……。我が皇家は賢くも天に御坐す大神様が、天孫に国を司らせるが為に降臨させた、その末裔であるゆえ青龍を抱くなど当然の事であった……。青龍は大きな力を保持致すゆえ、を身に抱いた天子ものは、民に繁栄と富と安泰を与え、この国の不穏なる不思議なもの達をも恐れさせ、八百万の神々ですら御味方と致した。しかしながらその貪欲なる青龍の欲は、尊き天孫の血筋の者達すら争わせる事となったが、その血が流れ流れて臣下へと下る様になると、今度はその者に青龍の好む者達が誕生する様になり、青龍を抱けぬ天子が抱けし臣下に、その力の全てを奪われかねぬ事態と相成った。血は微かに流れようとも、天子は天孫の血を濃く受けておらねばならず、それは高々の我らでは解らぬのだ。ゆえに天子の座を巡っての争いも起こるはそれが理由よ。高々の我らが決めし天子では、天が許さぬからだ」


 法皇は、神妙な面持ちの今上帝を直視した。


「再び青龍を抱けし天子を得られたが、必ずや青龍が好む天子が誕生致すとは限らぬ……私は抱けぬ天子ものであった様だ……。だがそなたは、を抱けし天子ものであったのだなぁ……」


 再び法皇は言葉を切って、しみじみと言われた。


「かつての陰陽寮の陰陽頭おんみょうのかみが、そなたの母……中宮の純子の腹帯の儀の折に、それは大きな力を有した物を抱いておるゆえ、全ての力を吸い取られてしまうやもしれぬと進言して参った。その時には青龍であるとは思えぬ程の物……だが物の怪などの邪悪な物ではなく、天が授けし尊き物であると言うた……私は純子が愛おしかった。ただただ大事だった。天が授けし偉大なる物より大事であったゆえ、を始末する様命じた……つまりそなたの始末を命じたのだ」


 法皇は蒼白と化す、今上帝の顔を直視し続ける。

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