三の巻

法皇の思い

第151話

 さて中宮が里に下がって落飾されたので、大臣達は色めき立っているのは当然で、中宮の座が空いた事になったからだ。

 中宮なんて高々の身分ではなれない。当然ながらかなりの実力者が、バックにいなくては……。

 だから大臣達が色めき立つわけだ。自分の娘を中宮にと思うのが、権力に取り憑かれたそれなりの身分を持つ大臣なら当然だ。

 だが今上帝は、そんな宮中の貴族達の騒ぎには無関心だ。

 長の年月、中宮職に就く事のない時代が存在するから、別に中宮を立てる事に拘りを持っていない。

 後宮には女御がいるのだから、別段騒ぎ立てる必要は無いと考えているし、そこまで思い入れのある后妃もいない。

 だから今上帝は、大臣達の騒ぎを放置している状態だ。

 そんなある日今上帝は、御父君であられる後院の法皇の御元に行幸された。

 長年愛した中宮の変わり果てた御様子と、久方ぶりの法皇へのご機嫌伺いといってもいいかもしれない。

 だが中宮は、此処にはもはや居なかった。


は我が皇家の皇女が建てた尼寺を頼りに、御仏に仕えるべく山に籠った」


まことご出家なされたか?」


「中宮の身でありながら前代未聞であるが、その身に起こった事を思えば致し方あるまい?前日まで居った子が、翌日には跡形も無く腹から消えていたのだからな……そしてその子は〝神〟となると言う……もはや御仏に縋るしかあるまい」


 法皇は繧繝縁うんげんべりの畳の上に座して、微かに下座に同じ繧繝縁の畳に座る今上帝を見つめた。

 繧繝縁の畳は、皇家のそれも位の高い者にしか使えない畳だ。


「……そなたの母も、その不思議な力によって、寿命を縮められた者よ……」


 法皇は視線を向けた今上帝の先に、視線を泳がらせて言われた。


「私はそなたが、憎うて堪らなかったのだ……」


 そのお言葉に、今上帝の視線は釘付けとなられる。

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