第140話

 古より更衣の女御とかは存在したし、今は婢女となった氏女うじめ采女うねめも、皇子の母となった者、ひいては皇后や天子の母となった者も存在したが、それはある一族が、皇家の血筋を得る権限を独占する以前の話しだ。

 現在はその一族が一族間で争っているから、さほどに低い女御は認められない。

 近年でも女房に御手をおつけになれる事もあったが、女御ともせず皇子皇女とも認められずに終わる事が多かった。

 

 今上帝は女御が多くないし、何といっても中宮一筋であったので、相手をするものであらば、大臣達の言葉など御聞きになられずにやみくもと女御とされた。それは只中宮への腹いせである事は、近しい者ならば想像された。それに乗じて、大臣達の娘の入内希望が殺到したが、今上帝は左大臣以外の者を全て退けた。

 それは高貴な姫しか女御となれない後宮で、さほど修練もせずに御手つきとなったもの達にとっては、自分の魅力で今上帝の御心を捕らえたという奢りとなった。

 何せ高貴な姫は中宮となるべく、それは涙ぐましい努力を強いられて育つ。

 そんな姫達より、今上帝を惹きつけたというそんな奢りだ。

 だが扱いは酷いものだ、そうするが為のもの達だと、最近になって身にしみて悟った様だが、どの様に扱われ様が御子さえ頂いてしまえば、彼女達の勝ちである。そういった計算は、彼女達の中で充分に働いているはずである。

 しかし幾ら身分が低いからといって、女御としたものを雛に対する行き場のないはけ口の様にされては……。

 幾度も繰り返しているが、今上帝の御心の拘りだからどうしようもない。

 伊織に言わせれば、拘らなくていい事にこだわって、どうしようもなくなった遣り場を、女御に持って行っているのが見え見えだ。

 一途なお方ゆえに、気持ちがいろいろとは動かない。

 元々中宮に対する、腹いせの様な行為で女御にしたもの達だから、愛情があるわけではないし、今現在雛に夢中ならば尚更の事だ。

 

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