第141話

 これはご自身で、どうにかして頂かねばならない。

 雛はどう見ても幼気な少女ではなく、何も知らない童女でもない。どころか知り過ぎている感がある程だ。

 とにかく落ち着く処に、さっさと落ち着いて頂きたい。

 これが伊織の本心で、今上帝に促しているつもりである。


「女御様方を、もう少し御大事に御いください」


「…………」


「お聞き届け頂かねば、雛に全てを申します」


「伊織、そなた」


 今上帝は顔容を歪めて、伊織を睨め付けられた。


「解った……」


 大事に思いすぎる程に思う雛に、呆れられるのは厭らしい。

 今上帝は渋々ながら、お答えになられた。


「それで主上……」


「何だ?まだあるのか?」


 今上帝が、不機嫌を露わにして言われる。


「ここからが、御話したき事柄でございます」


 伊織は神妙に言った。


「中宮様の事でございますが……」


「子の事か?」


「さようにございます。陰陽師が申しますには、中宮様の悪夢は神仏がお出ましとなられ、全てを主上に語り許しを得よとの事……」


「神仏が?中宮に許しを得よと、申されておいでなのか?」


「全てを話し、得ようと致す権力を手放さねば、御子様が青龍に食われるそうにございます」


「青龍?何だそれは……」


「主上が御抱きになられて、おられるそうでございます」


 今上帝は益々、顔容を歪められる。


「かつて摂政が抱き、権力の在り処が危ぶまれたとか?」


「ああ……青龍を抱ける皇子が誕生致し、摂政から青龍を奪い、その一族を追いやった……。その頃から青龍は皇家の皇子に誕生致すが、近頃ではその様な事を気に致す事はなくなった……」


「その青龍を主上が御抱きだとか?それもかなりの、大物だそうにございます」


「それが如何して子を食らうのだ?青龍が子を食らう話しなど、聞いた事がないぞ」


「主上の胤でなく、御子を得て権力を欲すれば、力という力に貪欲な青龍は、その子を食らうそうでございます」

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