第137話

 ……のに、最初が衝撃的であったのか、余りに大事過ぎて、その様な判然としない事柄を、推し進められないのか、とにかく今上帝は御自分で御自分の首を絞めておられる状況だ。

 つまり愛する雛を側に置いたが為に、悶々とした日々を送る事となり、そしてそれを后妃様達で、御鎮めとなられる日々を過ごしておられ、その後の愚痴の相手をさせられるのが、昨今の伊織の最大のお勤めとなっている。

 まっ、側仕えの伊織にすれば、今上帝には后妃方に早く、御子様を授けて頂き、先の先までの安泰を維持したいから、こうして御励みになられる事は大賛成だ。

 今までが、中宮への思いが一途過ぎて、遅過ぎた感が否めず、その為に今回中宮から痛い仕打ちを受ける事となった。

 ……という事で、この通常では計り知れない恋人達の、二人だけの云々など解り様もないし、理解しようとも思わない伊織は、今上帝の顔容を見つめるだけが精一杯だ。


「お二人の……は、解るはずがございません」


「……であるな……」


 とは言ったものの、想像できる事柄が一つだけある。

 それは、どうしても至急裁決を頂きたい事柄が発生し、伊織が何時もの調子で今上帝を訪ねた折に、殿舎の中から怪しい会話が耳に飛び込んで来た。


「雛よ。いい加減に致せ。今は……」


 今上帝の、切羽詰まった声と衣擦れの音。


「今は……ではなかろう?今上帝は、何時もいつもダメだと申す」


 雛の強い口調に衣擦れの音。


「あ、当たり前であろう?ここを何処と思うておるか?」


 衣擦れの音音音……。


「ならば時を止めるか?」


「ば、馬鹿を申すな!時など止めてみよ……如何な事となるか……」


「……ゆえに……」


「や、やめよ〜」


 今上帝の悲鳴にも近い声音に、伊織は慌てて御簾を潜って奥へと進む。


「主上……」


「い、伊織……」


 情けない今上帝の声に、伊織は殿舎の中に入った。

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