第131話
雛は今上帝を惑わすというか、戸惑わせる事に長けている。
とにかく今上帝は雛を大事に扱い、嘴の黄色い雛=童女までは行かないが、まだまだ年端もいかぬ少女と思し召し、最後の一線だけは越えぬ努力をされておいでだが、側から見れば決して少女でもなくば童女でもない、それこそ年頃の乙女の雛は、伊織すら唖然とする程の耳年増である。
とにかくよく知っていて、それを恥ずかしげもなく口にするのだから、側に置いて我慢の今上帝を、お気の毒としか思えない有り様となっている今日この頃であるから、后妃をお召しになられる事も当然に思うが、それを不満とする雛が、積極的にアプローチをかけてくるというのが、昨今の今上帝の日常だ。
まぁどんなに、童女だの少女だのに行う事が許されぬ、非道な行いだのと言っておられようが、籠絡されるのは目に見えている。
遠くない内に今上帝は、自責の念に駆られる非道な事をなされる事だろう。
……と伊織は、かなり冷めた目で先を読んでいる。
そうなれば必然的に今上帝は、中宮がお産みになられる御子様には、ご自信の地位を御与えにならないだろう。
御与えにならないだろうが、そこに口を挟んでこられるお方がいる事も予想され、皇家ではよくある父院との駆け引き、又は権力争いが起こり得る。
そして古の天下人が、最も寵愛する女の産んだ子供を自分の後に据えたがるは、幾度と繰り返して来た事だ。誕生の順や妃の優劣など構いなく、先例や常識などそっちのけでだ。
つまり今上帝はいずれ雛が産む子に、天下を与えたいと思うだろう。
ならば神仏までお出ましなのだ、これを利用しない手はない。と伊織は考えた。
今現在今上帝は、その事まで気が回る事は無く、父院とのいざこざを避けたがるだろうが……。
とにかく此度、神仏がお出ましになられているのだ。
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