第132話

「神仏がお出ましとあらば、皇子様であられるのだな?」


「それは確かな事にございます。その内容を中宮様は、シカとご存知のはず……そして伊織様、一番大事な事は、御子様が主上様の御子様ではないという事でございます。ゆえに神仏がお出ましになり、青龍は食うのです。主上様の御子様であられれば、力の在り処は変わりませぬゆえ」


「全てを見通される神仏ゆえに、お出ましという事か?」


 伊織は、恐ろしい笑みを浮かべて朱明を見た。

 その眼光に、小心者の朱明は身を縮める程だ。


「……陰陽師殿……真実その様な事が、無くてもよいのだ……」


「はい?」


「その話しを聞かせてくれただけで、そなたにはまた借りができた……」


 朱明は、本気で伊織が神仏や青龍の話しを、信じていない事を察した。

 平安の治世のこの宮中では、不思議なものに対する畏怖や敬意を持つ者が大半だが、稀にそういった古式ゆかしい事に、興味を抱かない異端児が存在する。

 別に否定をしたり拒否をしたりするものではないが、それだけで全てを片付けない者だ。つまりはそれらの存在を上手く使い、自分の有利になる方へと、持って行こうとする畏れを知らぬ者だ。

 伊織はそういう事を考える、この時世には稀なる人物であった。

 畏怖や敬うべき存在すらも、恐れを知らずに利用する人間なのだ。


「ところでそなたは、どちらか占う事はできるのか?」


「は?」


 朱明が頓狂な声を発したので、伊織は意地の悪い笑顔を向けた。


「なんだ?神仏頼りか?……仏法の力を使って変える修法があろう?」


「あれは……」


 朱明は顔容を歪めた。

 胎の中にある女子を男子に変える修法で、着帯の儀と同時に修されるが、この反対は存在しない。

 朱明には、これこそ本当に胡散臭と思っている。しかしもし本当にできる程の者がいたとして、それをやれば天に仇なす行為だと思う。

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