第128話

 古……というには、まだ現在に近い頃だ。

 大神の遣いの瑞獣のお妃様が、平安の治世のお慶びを伝えに来て、当時の帝に見初められて后妃となった。

 その頃の摂政の一族が栄華を極めていたが、その帝の皇子に後に追いやられた摂政が、伊織の一族だが決して直系の家系ではない。だが追いやられた摂政家は、同じ血筋の者達にも蔑められて凋落した。

 それでも同じ血を流す一族間での婚姻は続いているから、伊織はその摂政の系統でありながらも、今現在幅を利かせている一族との、親戚関係もあるから、こうして生活しているわけだ。

 その摂政が抱いていた青龍?

 確かにその様な話しを、しめやかに伝えられてはいるが……。

 さすがに由緒正しい一族の中でも、かの摂政程に栄華を極めた者は存在しない。

 あれは真実、聖獣を抱いていたからなのか……。


 ……権力の在り処が危ぶまれた……


 つまりは、その神獣は原来抱くべき天子の元に還ったという事だ。

 伊織は陰陽師をはじめとする、不思議なもの達と関わりあえる者達については、多少胡散臭い者も存在するという目で見ている。実名を敬避するこの国で、主人たる主上が呼ぶを、そのまま皆に平気で呼ばせるのもその為だ。そんな伊織は面前の気の弱い、とても陰陽師など務まらぬだろうと思っている、ひ弱そうにしか見えない男を直視した。


「青龍とは神獣一のを保持し、貪欲にを貪り欲する物の様でございます。他国ではその力に任せて、国々を手中に収めていく行為がなされる事があるとか?ゆえに青龍は抱かれし者から、力を奪おうとする者には容赦がないそうにございます」


「……つまり?」


「中宮様の御腹の御子様が皇子様であられ、その胤の主が主上様の権力を狙おうとなされれば……その道具となり得る御子様を、食らうと言うのです……さすれば憂いは無くなりますゆえ……」


「もしも皇女様ならば?」


「その様な心配はご無用かと」

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