第127話

「精王とは魚の精の王でございまして、竜宮城の綿津見わたつみ様とは海と河を分けて統べておいでで、片や大海の綿津見神片や大河の河神かしんと称されますものゆえ、河魚の精の王でございます。その精王は禁庭の池底に神殿を持って居りまして、涸れかけておりました古の湖の名残の池を広げ、天子様の禁庭をお造り下されました折に、天孫の血筋ながれの禁庭の池に、霊山の神泉の一部を天の大神様が再び湧き出させて下されたとか?それをいたく感謝して、かのもの達は、永きに渡りその池より天子様をお護りしておるそうで……」


 陰陽師の神懸かり的霊的な話しを、聞き飽きた感のある伊織は黙って聞き流している。

 精王とはあの竜宮の酒で月見……ってヤツだ。


「実はその池と宮中の池は、池底で繋がっておりまして……それもお護りするが為の物でございますが……ゆえに精王の臣下達は宮中の事を、お仕え致す私よりもよく知っておりますし、池底の神殿はさながら宮中の様だとか……模しているそうで流行りの物から衣まで、何から何まで同じだそうで……」


 ははは……と、朱明は気の無い伊織に笑顔を見せる。


「つまりは、お喋りな女房達も同じで……。その精王が申しますには、中宮様の御子様が万が一主上様の御胤でない場合……」


 すると一瞬にして、伊織の表情が変化した。


「御胤でない場合は、如何となるのだ?」


 それは鋭い眼光で問い詰める。


「権力を欲する者が背後におれば、御子様は青龍に喰われるそうにございます」


「……青龍?」


「主上様が御抱きになられておられる、神獣でございます」


「う、噂には聞き及んでおるが……」


 伊織が戸惑いを見せて口籠る。


「私も金鱗に教えて貰い、我が家の文献などを調べてみたのですが……かつて摂政が抱いており、権力の在り処が危ぶまれた時がございます……」


 伊織は顔色を変えて、朱明を凝視した。

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