第126話

「瑞獣様と主上様は、仲良くお暮らしで?」


「仲良く……などではない。私が気を使う程だ。蔵人達とて、部屋に入るは気を使う程だ」


 朱明は神妙に聞いた。

 たぶん他の者達は、瑞獣様を綺麗な少年と認識しているだろうから、そんな彼らが気を使う様では、今上帝様の威信に関わる事にならないか?などと心配症の朱明は考えてしまう。


「さすがの主上も、雛の積極性には戸惑われておいでだ」


「積極性?」


は雛と申しておるが、なかなか手慣れた女房達よりもおるから、さすがに主上が何処まで我慢がおできになられるか……」


 伊織は小さく顔を振りながらも、口元は緩み嬉しそうだ。

 さもあらん、幼い頃から今上帝は、かのお方に思いを募らせお求めになられるばかりで、心に留める者からお求めになられた事がないお方だ、側から見ても過激な程だが、愛されるものに求められるお喜びを、始めて経験なされておられるのだから、幼い頃からを知っていればこそ嬉しいに決まっている。


「はぁ……」


 朱明はなんと反応をしてよいものか、戸惑ってしまう。


「……そう申せば、瑞獣様は碧雅と申されるそうにございます」


「碧雅?」


「瑞獣の鸞は、青い羽をお持ちになられるとか?ゆえに光り輝く宝石のだそうにございます」


「ほう?それはまた美しい……」


 伊織は嬉しそうに感嘆する。


「ところで伊織様……」


 朱明は金鱗に指示された様に、話しを切り出した。


「只今、中宮様におかれましては……」


「ああ……悪夢が続いておるとか?」


 伊織はかしずいていた女房達を下がらせて、身を乗り出した。


「何か解ったか?」


「はい……。実は我が屋敷の池に、金鱗と申す魚の精王が居りまして」


「魚の精王?」


 伊織は乗り出した身を戻して、それは冷ややかな眼差しを向けた。

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