中宮の御子

第124話

 大きな屋敷の、門に入って車を止める。

 中津國なかつくには、なんといっても母方の家の力が物をいう国だ。仮令それは天子様の血を同じくする、兄弟姉妹でも特別でないのは、非常に公平だと思う反面、非情な事だとも思う。

 天子様の同じ血を継ぐ皇子皇女様でも、母親の身分が低かったり、寵愛が薄かったりしたら、親王・内親王という称号を頂けない事もある。

 つまり母の身分=里方の父の権力によるから、皇家のお方達とて大変だ。

 どんなに天子様がご寵愛された后妃様の、お産みになられた皇子様でも、親王宣下を受けられないお方も、過去には多々と存在している。

 しかし現在この後宮は、ある一族間での実権争いが主だから、そんなに身分の差は大きくはない。つまりその一族から、天子となる御子様を産む姫を天子様に、権力を手中に入れようと争っているから、そんなに身分の低いものは、今上帝の相手とはならないからだ。

 伊織も先を辿ればその一族だが、一族間で頂点を争いまくっているから、それこそ同じ胤なのに腹違いで争い、破れれば追いやられる……といった具合で潰し合っているから、今の主流一族から弾かれた一族だ。

 その母が宮仕えをして夫を持ち、伊織を産んで乳母となり、その皇子が皇太子・天子となったから、伊織の両親は共に出世を果たした。

 それに伊織は乳母子として育ったが、幼い頃から母を亡くされ、お父君様から高御座の座を譲られた、お寂しい今上帝にずっとお側で仕えて来た、側近中の側近。この宮中で今上帝がただ一人、その御心を許されるお方だ。

 貴族達は大概役職名や屋敷のある地名で呼ばれるものだが、伊織だけは今上帝が幼い頃から呼ぶ、呼び名で呼ばれる。それは今上帝のと誰もが認めているからで、役職などあって無いようなものだからだ。

 だから屋敷が、ショボいはずはない。

 朱明には身に余り過ぎる屋敷よりも、更に大きな屋敷だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る