第120話

 ……ええー?

 今上帝様の思いは、どうなっているのだ?

 いやいやそれより、中宮様が御産みになられる御子様は?……


 朱明は言葉が見つからない。


「陰陽師よ。そなた今上帝に、青龍が抱かれておるのが見えるか?」


「え?」


 衝撃を受けている処に、違う衝撃を投げ込んで来られても、どう反応していいのかわからない。


「……それもかなりの大物だ」


「精王様は見えるので?」


「当然だ。あやつのは、俺すら身震いする程のものだ……まっ、直接今上帝に会う事がないから、目を合わせる事はないがな……」


 金鱗はそう言うと、真顔を作って朱明に顔を近付けた。


「そもそもそなた、青龍を知っているのか?」


 朱明は思いっきり、首を横に振る。


「龍を抱けし者天下をとる……。青龍は力を好む、最も力を保持した神獣だ。ゆえに他国では、龍を抱いた者が天下人となると言われている。力を貪り覇王ともなり得る。力任せに全てのものを従わせる。抱いた者には力を与えその者から力を得る。ゆえにその者から、力を奪おうと致す者には容赦はない。その者の力を喰って自分の物とするのだ……つまり……」


 金鱗は尚一層、声を落として朱明を見つめた。


「法皇が今上帝の権力を奪おうと目論んでおれば、その子は喰われるぞ」


 朱明の顔色が変化し、吐き気をもよおした。


「まっ、その子が公主ならば問題はないがな……皇子ゆえに神仏が中宮に諭しに来たのだ」


「……ウッ、皇子様とお解りなので?ウッ……」


「神仏だぞ?」


「ウウウ……」


 朱明は釣殿から身を乗り出して、池に吐き出しそうになる。


「中宮は今上帝に縋るしか術はない」


「縋る?」


「全てを捨てて子の命を守る。今上帝の権力への脅威とさえならねば、青龍は目覚める事もないし、子は今上帝以外の者の子として育つ……」


 朱明は堪え切れずに、池に胃物を吐き出した。

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