第113話
中宮はずっと同じ夢を見ている。
何時からか?
……そうだ、今上帝の子を身籠ったと、侍医が公にした時からだ。
その夜中宮はやっと我が子が、今上帝の子と認められた事に安堵して、久しぶりに深い眠りについていた。そしてその深い眠りの中で、それは尊い貴人がこちらを、喰い入る様に見つめている事に気がついた。その視線は中宮の美しい容姿にではなく、まだ小さく儚い命を育む、彼女の腹に向けられていた。
その尊いと遠目でも解る程の貴人は、近づいて見ればとても大きな体躯で、驚く程に猛々しい様を現している。
そしてその金色の鋭い目を、中宮の腹から顔へ移して
「それはあれのか?」
と、恐ろしい程に低く響く声音で聞いた。
中宮は身を
「
貴人はその大きな体を、中宮に寄らせて念を押す。
中宮は余りにもの恐ろしさに頷く術しか知らない様に、幾度も幾度も頷き続けて……そして目を覚ました。
目覚めてからも、あの低く響く声音が耳に残って恐ろしい。
気も
すると次の夜の夢の中に、それは尊き阿弥陀如来様がお出でになられた。
中宮は昨夜の怖ろしき貴人を思い、我が身を御救い頂ける為にお越しくだされたと、それは有り難く嬉しく御側に寄った。
するとやはり阿弥陀如来様は
「それはあれのか」
とお聞きになられる。
中宮は再び恐れを持ったが、昨夜同様に頷いた。
「
優しくお諭しではあるが、そのお言葉は強い。
中宮は恐れを抱いて、頷く術しかない。
大きく頷き続けている内に目が覚めた。
その日はもはや、気持ちが塞ぎ切って一日を過ごした。
そしてよく夜は、
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