第114話

 そして阿弥陀如来様と同様に


「それはのものか?」


 と、お聞きになられる。


「よいか?浅はかなる女人よ。もしものもので無くばそれを公に致すか、もしくはに全てを晒し救いを求めよ。はかつてない程のものであるゆえ、力をから奪おうと致す者には容赦はないぞ。だが全てを晒し全てを捨てるのであらば、未だ目覚めておらぬゆえ、惨事は回避致せる、が、からを奪おうと致せば、それによりは目覚め攻撃致すぞ」


 余りに恐ろしいお話しに、中宮は汗をかいて飛び起きた。


「如何なさいましたか?」


 近頃の御様子がおかしかったので、隣室に控えていた女房がにじり寄る。


「釈迦牟尼仏様が……」


 中宮は唇を震わせて、それしか言葉が出て来ない。


 ……何が起こっているのだ……


 中宮は恐ろしくて仕方ない。

 まして眠ると同じ事を聞かれる……。

 中宮は夜寝るのが恐ろしくなり、眠れなくなった。

 当然の事ながら、昼間睡魔がやって来る。

 中宮は昼間の明るい時に何人もの女房を、御帳台の周りに侍らせて眠りに就いた。

 妊娠初期の妊婦がよく眠るのは当然の事だから、女房達もおかしいとは思わずに談笑などしながら傅いている。


「それはのものか」


 それはお優しき面差しの、観世音菩薩様がお聞きになられたが、もはや中宮は同じ言葉に恐怖しかない。


「よいかく詫びるのだ。許しを乞うて命を守れ。その子が皇子と解れば食われる……」


 優しい面差しとは真逆の、それはきつく鋭い眼差しを向けられ、中宮は恐れ慄いて悲鳴をあげて目を開けた。


 隣室に詰めていた女房達が、大慌てで御側に寄って来る


「中宮様……」


 中宮は顔面蒼白となって、汗をかいて体を震わせていたが、その見開かれたまなこは天を仰いで、恐怖の色を現していた。

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