第107話

 それでも夫婦として、共に生きて行けると御信じであられたが、今上帝のお側に在りながらも、裏切りの行為を続けられた。中宮と実父の法皇に打ちのめされ、それでも中宮とはいずれは、こういう結果を辿ると御存知であった。

 法皇が御健在の間、夫婦の営みを避け続けられる術はない、いずれはこういう結果となる運命だ。ただ今と違うのはが定かではなく、御子様が御誕生の砌より生涯、その御子様に猜疑心を抱き続け、決して愛してやれぬ事だ。

 だが現在いまは、それが確実なものとなっている。

 今上帝はここ数ヶ月、中宮の女房達に手を出していた時期には、中宮とは枕を共にされていなかったからだ。一つは父法皇の体調不良が、中宮の思いを今上帝に突きつけたからであり、その結果ずっと打ち消していた二人の関係を、今上帝自身が認めたからだ。……そう、たぶんずっと以前から知っていた。入内する以前からずっと気づいていた。それをただ打ち消して、認め様としなかったのは今上帝自身だ。ただただ好きだったのだ。恋しく焦がれていたのだ。

 いずれ……いつか……同じ思いを抱いてくれると、信じたかったのだ。

 だがその思いは、余りにも過酷な形で打ち砕かれた。

 中宮は法皇の子を今上帝の子として産むが為に、薬を使って今上帝を意のままとした。

 あの日……青月の夜のあの夜、今上帝は中宮の誘いにのった。

 それは薬という、今上帝の意思を顧みる事すらしない非道物ではなく、確かに今上帝の意思で中宮に誘われ、躰を重ね様と御帳台に入った。

 それが仮令雛に対する、気持ちの乱れからであったとしても、今上帝は中宮の全てを疑いながらも誘いにのったのだ。

 だがそれは雛によって阻止され、今上帝は雛の存在で心の乱れを治め我に返られた。

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