第82話

「だがそれらは、のものとは桁違いだ。は覇王にもなれる力のものだ。他国や大国に誕生する事が多々ある大物よ。そして末路は知れている。おぞましい程に権力を貪り尽くして、それでも飽き足らずに全てを喰い散らかし、最後には何も残さぬがあれの所業だ。そして再びの抱けし者の元に飛んでいく……だが残された処には、の喰い散らかした残骸しか存在しない」


 金鱗は並々と注ぎ入れられた盃を手に、天空の青月を見つめる。


「碧雅よ……」


「何だ?」


 碧雅も、瓶子と盃を手に金鱗を見た。


「あやつの青龍を目覚めさするな……」


「えっ?」


「あれは凄い物ぞ。あれは驚異だ……平安の治世は終わりを告げる。鬼や魑魅魍魎などを呑み込んで、この国を呑み込み、近隣の国々を呑み込んで行くぞ……国の者達は、初めは強大となり栄華を極める事に歓喜を持つだろうが、直ぐにその恐ろしさを知る事となる……」


「……そ、そんな青龍を、私如きが如何できると申す?……もはやお長兄君あにぎみ様、お母君様、大神様の域であろうが?……」


「……であるな……」


 金鱗は青月を見つめたまま、呻る様に相槌を打つ。


「……だが、そなたが参ったのだ……それには理由があろう?」


「……はっ?私が参ったは、の側に傅く為よ」


「……ゆえに理由があろう?そなたの母君様は、真実そなたを后妃と致すも厭わぬ様だからなぁ……」


「さようなのか?」


「さようであろう?そなたの雌雄をに決めさすは、事であろう?何せ兄の朱を愛した、弟帝の例があるからな」


「……であるか?何せお母君様は、何も教えては下さらなんだからな……ただずっと、あれの意に従う様私は育てられたのだ……此処に参る時もそうである……しかるにお母君様は、の望む体躯に至る私の体躯を、見誤られたのだ……何たる失態であろうか?」




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