第80話

「今の様にを持ったは、やはり中宮の存在が大きい。恋い焦がれた女人あいてを得たのだ、男として艶を持つは当然の事……思いが深ければ深い程、思いが通ぜねば通ぜぬ程に、男のは色を成す……だがそうなる迄に、中宮は大人の法皇に染められてしまった……まだまだ今上帝では、物足りない処もあったのであろう……どうしても大人の法皇を求めた……それは幼いと今上帝を見下す中宮の誤りよ。中宮の見解とは違い、今上帝はもはや立派な大人の男であり天子だ。誰に後見されずとも天下を統べる力量も備えておる。そんな今上帝に譲った事に悔いを持ち始めたのは、余りに早く権力を手放した法皇よ。無能な者ならまだしもは、想像する以上に利口だし、何といっても青龍を抱けるだけの力を有している。法皇の後悔は半端なものではない」


「法皇にも見えるのか?」


 碧雅が注いでも注いでも涸れる事を知らない、竜宮城の酒の入った瓶子を揺すって聞いた。

 先程潤んだ瞳は、その潤みを微かな物としている。


「高々の人間に、見えるわけはなかろう?……だが皇家の者だ同じ血を流す者だ、法皇にはその脅威は感ずるだろう?の青龍は、今迄のとは桁が違うからな……」


 金鱗は笑みを浮かべた顔容に、碧雅には見せた事の無い、それは鋭い瞳を向ける。


「此処に在って、噂だけは妖いもの達から聞いておったが、銀麟からも言われて見に行ってみたが、は物凄いものを引きつけた。かつてそなたの次兄を苦しめた、あの摂政のものなど赤子にも満たぬものよ」


「さ、さようであるのか?私はを知らぬからな、青龍とは皆ああなのかと思うておった……」


「……ゆえに法皇はが恐ろしいのよ……大事に育てた中宮を、我が身の老い先の短さを理由と自分に言い聞かせて、が望む様に差し出す程にな……しかしそれを高々の人間は、理解せぬまま行うのよ……」

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